泣いてもいいよ。
それから、6年半の月日が経った。
偶然の出会いって、あるもんなんだ……。

「楠本くん……」
手を合わせて、文字が刻まれた石を見上げた。
『楠本家之墓』。
「今年で24歳だね」
「……そうだよな」
手を合わせてしゃがみこんだまま、衝撃が走った。振り返るのがこわかった。
「久しぶり。おのはる」
やっぱり……あの人だ。この呼び方は。
「大垣……くん」
このまま逃げてしまおう。走って逃げてしまわないと。きっとまた、あのときはゴメンとか言われるんだ。6年以上前のことをむし返してくるんだ。
「あのさ」
「もういいよ」
「違うよ。あのときのことは、もう、おのはるだって思い出したくないと思う。そりゃ、俺だって悪かったと思ってるけど……もう忘れたほうがいいよな?」
高校生のときより少しだけ声が低くなった。
「そりゃ……そうだけど」
「俺が言いたかったのは、いや、てか渡したかったのはこれ」
ゆっくりと振り返ると、背が高くなって、顔も少しばかり変わった大垣くんがいた。
そして、文庫本ほどのノートを差し出していた。
「なぁに、これ」
「……康太の、日記」
日記?え!
あれ、嘘じゃなかったんだ。部屋に誘った理由も、嘘じゃなかったんだ!
「何冊もあるんだけど、これがいちばん読んだほうがいいと思った」
「そ、そうなんだ!ありがと。また読んでみるね」
ちょっとの間の沈黙。
「あのさ……なんで私がここにいるって分かったの?」
「鮎川に聞いた」
……鮎川。懐かしい響きだ。
「美羽と今も仲いいの?」
「付き合ってた。でも、先週別れた」
付き合ってた!?
でも別れた!?しかも先週!?
「は?意味分からない。なんで?えっ、てか何がどうなって……」
「大学が一緒だったんだ。2年のときに付き合ってほしいって言って、付き合い始めた。そんで先週、結婚のことを持ち出したらあっさり見抜かれてて……別れてって言われたよ」
「美羽のことが好きだったの?」
「俺……鮎川にはもう見抜かれてたんだけど、大学生になってもまだおのはるが忘れられなかったんだよ。いちばん好きだから……今でも」
____今でも。
「……は?」
「今でもおのはるがだーいすきってわけだ」
大垣くんはニッと笑った。
楠本くんのお墓に挿さった花が、ふんわりと揺れた。
「読んでみなよその日記。いや、是非読んでくれ」
「え、あ、うん」
私はノートをめくった。
懐かしい、楠本くんの字……。
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