家の前で倒れている男に餌付けしてみた結果(仮)
〈巳波八尋side〉
「…柚に何を言った」
「ふふ、知りたい?」
綺麗に弧を描く唇。
「…それに、八尋はあの子のことは名前で呼んでるんだね。妬いちゃうなぁ」
テーブルの上に置かれた冷えた水をお姫様はゆっくり揺らす。
カラン
氷の音が何故かよく聞こえた。
「呼ばない。…あんたの名前なんて口にも出したくない」
「…何よ、あの子ばっかり」
ポツリとお姫様が何か呟いた気がしたが周りの騒がしい声に掻き消される。
「それに、大事な話があるなんてわざわざ電話してきたのに何だ話す気なんてないだろ…」
昨日の深夜、お姫様の着信に起こされた。
どうしてもと言うから、いたくもないお姫様の側にいるというのに。
「ちゃんと大事な話はあるよ?八尋にとってもあたしにとってもね」
もっと以前はオドオドしていたのに、今は堂々としていて余裕の笑みも浮かべている。
…何か企んでいるのか?
何を考えているのか、何を俺に言おうとしているのか想像も出来ない。