家の前で倒れている男に餌付けしてみた結果(仮)
「…存在自体が無理」
かなりキツく言わないとこのお姫様は気付くことはないから。
教室を出た後、人気の無い何にも使っていない空き教室の前、向かい合う。
「あたしの?あたしの存在自体が無理…?嘘でしょ?ねぇ八尋」
しつこく俺のシャツを掴み揺らすお姫様。
それを冷たい目で見下ろしているということに気付かないのだろうか。
シャツに皺がよっていく。
顔を歪ませ目は血走っている。
そして、いきなり手を放したと思うと
「やっぱりあの子が八尋の側にいるからっ」
と親指の爪を噛んだ。
「柚は関係ない。…最初から無理」
柚は関係ない。
それは事実だ。
「嘘よ!あたしの事を八尋が見てくれないのも、あたしを好きだと言わないのも、あの子のせいでしょ!?…あの子に何か言われたんでしょ!」
長い栗色の髪を振り回し、怒鳴るように言うお姫様は目の周りに塗ってある黒いものがヨレて化け物のようだ。
「違う」
柚は何も言わない。
何も言わず踏み込んで来ない。
時々何か言いたげな瞳で見つめてくる時もあるが、何も言わないんだ。