好きじゃなくてもいいよ
その日の放課後、翔と私とめぐの三人でカラオケに行こうという話になった。

なのに。

めぐが委員会があったのを忘れていたらしく、思いがけず翔と教室で二人きりで待つことになってしまった。


「なあ中沢~」


他愛もない話が途切れた時、翔がため息とともに真面目な顔つきになる。


「ん?どしたの?」

「俺さ、彼女でも、作ろうかな~と思うんだよね。」

言われた瞬間、私の息が止まった。

「もう告白断るのもしんどいし、ダミーでもなんでもいいから、めんどくさくない奴探そうかなって。」

血の気が引いていく。



なんだかんだ言って、私は今まで安心していた。

翔は誰のものにもならない。

だから、このままで良いんだ、って。

なのに…こんな急に…。

ダミーでもなんでも、翔の隣に私以外の女子が立つなんて嫌だ。

耐えられないよ―――!!




「…だったら…」

「え?」

気付いたら、口を開いていた。

翔を誰にも渡したくない。

その思いだけが頭の中を駆け巡る。


「だったら、私と付き合おうよ。」


翔の瞳が驚きに見開かれる。

それを見て、しまったと思った。

でも、もう引き返せない。



「す、好きじゃなくてもいいよ。好きになって、なんて言わないから…。」

「中沢…お前、俺のこと…」

「私もちょうど彼氏ほしいなって思ってたの!!…でもなかなか見つからないし、だけど恋人気分は味わってみたくて…。で、でもまぁ、翔だって隣に立つ女の子は選びたいよね!!私じゃ女の子避けに役不足か!!ごめん、忘れて!!」

あははっ!!と無理に笑って、席を立った。

泣きそうな顔を見られたくなくて。




翔の驚いた顔。

あれは、全く予想してなかった。って顔だ。

つまり、私なんてそもそも対象外だったって事じゃん。

なんであんな事言っちゃったんだろう。

せっかく、友達のポジションを大事に守ってきたのに――――




翔に背を向けたくて、窓枠に手をかけ空を見上げる。

秋の空はどんより曇っていて、私の今の心境みたいだ。


「翔、雨降りそうだよ。傘持ってきた?」


沈黙が怖くて、わざと明るい声で言った。

しかし、返事はない。

本気でドン引きされたのかもしれない。

そう思うとますます泣きたくなってきた。


「私傘持ってないから、今日カラオケやめとこうかな~?濡れて帰るの嫌だし。」


それでも、必死に言葉を続ける。
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