ビターチョコ
翌日、学校に登校すると、私はまっすぐ教室には行かずに、保健室に行った。
深月の心のケアを、頼みたかったからだ。
しかし、伊藤先生はいなかった。
すると、こちらに背を向けて体育座りでうずくまっている女子生徒がいた。
服装こそ制服ではないが、深月だった。
横顔は映像で見るよりやつれていて、身体の線も細くなっている。
声を掛けないでおこうかと思ったが、明らかに様子がおかしかった。
彼女の周りには、ハサミやカミソリ、カッターが散らばっていた。
リスカ、という言葉がすぐに頭に浮かんだ。
……させるものか。
「やめて!
深月は深月のままだから!
深月の身に何があっても、親友は親友だから!
私、深月がいなくなったら悲しいよ?
深月がいない間、寂しかったんだ。
私は、同じ理系のクラスで、深月と一緒に授業受けたいなって思ってる。
……大丈夫。
どんな深月でも、私も、他の皆も。
深月のことを嫌ったり、深月の側から離れたりしないよ」
深月の耳に届くように、深月の腕と一緒に後ろから抱きしめる。
力を失ったように、床にカミソリが落ちる。
ちらりと見えた手首には、何本かためらい傷があった。
同時に、わぁあ、と声を上げて泣き出した深月の前に回って、今度こそ強く抱きしめる。
「わたし、まだ、ともだち?」
「みっちー、も?
れいまくん、も?」
「他の、皆も?」
泣きじゃくりながら言う深月に、彼女の頭を撫でながら優しく語りかける。
ふと見ると、開けっ放しになっていたであろう保健室のドアから、いろいろな顔が、心配そうに覗いていた。
華恋、美冬、椎菜、麗眞くん。
他校の生徒のはずの拓実くんと秋山くんまでいた。
伊藤先生と、新しい担任の三上先生と、深月の母親も。
喘息の発作が出るのも構わず、走ってきたのであろう碧もいた。
「深月。
落ち着いたらでいいから、後ろを見てみるといいよ。
皆、深月のことを大事に思ってくれている人たちだから」
後ろを一瞬振り返った深月。
みるみるうちに泣き出す。
深月の母親と、伊藤先生、三上先生がずい、と前に出る。
「貴方たちは教室に行きなさい。
……ここからはプロの領域よ。
素人が踏み込んで良い場所じゃないの」
「貴方もよ、秋山 道明くん。
貴方はまだ他校の生徒なの。
いくら、知り合いで、彼女の理解者だとしてもね、所詮は他人なの」
深月の母と、伊藤先生の口調に、何か言いかけて、しぶしぶ学校を出る道明くん。
道明くんの腕を引いて、何やら麗眞くんが話しかけている。
そして、先に教室に行っていてくれと言って、麗眞くんと秋山くんは昇降口を出た。
それから、およそ1か月が経った。
体育祭の練習が本格化していた。
昨年は出られなかった。
だからこそ、今年は何としても理名は出場したかった。
高校2年生の学年種目は玉入れである。
ただの玉入れではない。
騎馬を作って、籠に玉が入るのを妨害できるのだ。
これなら、体育の成績は2の私でも何とか出来そうだ。
練習には、参加こそしていないものの、深月の姿もあった。
その場で、私たち親友に深月のほうから打診があった。
当時起こった事の再現ドラマを作るのに協力してほしいとの、驚きの申し出であった。
それは、自らの傷口を自分でこじあけることになるのではないか。
しかし、それを否定することはできなかった。
彼女が自分の意志で決断したことだ。
他人であって、身内ではない私たちに止める権利も義務もない。
それは、自分自身を客観視するためでもあり、これから行われるであろう、裁判の証拠としても使えるものになるはずだ、と。
「行動は思考に引っ張られるから、前向きに考えないと!
私も意地になっていた部分があった。
今回の件で皆が、私の事をまだ親友だよって言ってくれて、本当に嬉しかった。
……ごめんね。
変な意地張って、自分の気持ちに気付かないフリしてた。
今まで他人に首突っ込んでばっかりだった。
だけど、ちゃんと自分のことも大事にしたい。
ここにいる皆みたいに、私を大事にしてくれる人も大事にしたい!
サークルにも出られていないし、クリスマス時期に美冬のラジオ番組にお邪魔するの、楽しみにしてたのに出来なかったし。
そろそろやりたいなって、思えてきたから」
「いいと思う!
ウチの学園の教師が、いくら防犯だなんだっていっても、実感わかないだろうし。
再現ドラマ作るのは、良いと思うな!」
「作ることで、深月ちゃんが少しでも前向きになれるなら、いいと思う。
俺も、道明くんも。
なんなら拓実くんも。
協力してくれると思うよ」
「私は、深月を応援するよ」
心は決まった。
親友皆が、再び一致団結した。
この光景は久しぶりで、私も胸がいっぱいになった。
深月の心のケアを、頼みたかったからだ。
しかし、伊藤先生はいなかった。
すると、こちらに背を向けて体育座りでうずくまっている女子生徒がいた。
服装こそ制服ではないが、深月だった。
横顔は映像で見るよりやつれていて、身体の線も細くなっている。
声を掛けないでおこうかと思ったが、明らかに様子がおかしかった。
彼女の周りには、ハサミやカミソリ、カッターが散らばっていた。
リスカ、という言葉がすぐに頭に浮かんだ。
……させるものか。
「やめて!
深月は深月のままだから!
深月の身に何があっても、親友は親友だから!
私、深月がいなくなったら悲しいよ?
深月がいない間、寂しかったんだ。
私は、同じ理系のクラスで、深月と一緒に授業受けたいなって思ってる。
……大丈夫。
どんな深月でも、私も、他の皆も。
深月のことを嫌ったり、深月の側から離れたりしないよ」
深月の耳に届くように、深月の腕と一緒に後ろから抱きしめる。
力を失ったように、床にカミソリが落ちる。
ちらりと見えた手首には、何本かためらい傷があった。
同時に、わぁあ、と声を上げて泣き出した深月の前に回って、今度こそ強く抱きしめる。
「わたし、まだ、ともだち?」
「みっちー、も?
れいまくん、も?」
「他の、皆も?」
泣きじゃくりながら言う深月に、彼女の頭を撫でながら優しく語りかける。
ふと見ると、開けっ放しになっていたであろう保健室のドアから、いろいろな顔が、心配そうに覗いていた。
華恋、美冬、椎菜、麗眞くん。
他校の生徒のはずの拓実くんと秋山くんまでいた。
伊藤先生と、新しい担任の三上先生と、深月の母親も。
喘息の発作が出るのも構わず、走ってきたのであろう碧もいた。
「深月。
落ち着いたらでいいから、後ろを見てみるといいよ。
皆、深月のことを大事に思ってくれている人たちだから」
後ろを一瞬振り返った深月。
みるみるうちに泣き出す。
深月の母親と、伊藤先生、三上先生がずい、と前に出る。
「貴方たちは教室に行きなさい。
……ここからはプロの領域よ。
素人が踏み込んで良い場所じゃないの」
「貴方もよ、秋山 道明くん。
貴方はまだ他校の生徒なの。
いくら、知り合いで、彼女の理解者だとしてもね、所詮は他人なの」
深月の母と、伊藤先生の口調に、何か言いかけて、しぶしぶ学校を出る道明くん。
道明くんの腕を引いて、何やら麗眞くんが話しかけている。
そして、先に教室に行っていてくれと言って、麗眞くんと秋山くんは昇降口を出た。
それから、およそ1か月が経った。
体育祭の練習が本格化していた。
昨年は出られなかった。
だからこそ、今年は何としても理名は出場したかった。
高校2年生の学年種目は玉入れである。
ただの玉入れではない。
騎馬を作って、籠に玉が入るのを妨害できるのだ。
これなら、体育の成績は2の私でも何とか出来そうだ。
練習には、参加こそしていないものの、深月の姿もあった。
その場で、私たち親友に深月のほうから打診があった。
当時起こった事の再現ドラマを作るのに協力してほしいとの、驚きの申し出であった。
それは、自らの傷口を自分でこじあけることになるのではないか。
しかし、それを否定することはできなかった。
彼女が自分の意志で決断したことだ。
他人であって、身内ではない私たちに止める権利も義務もない。
それは、自分自身を客観視するためでもあり、これから行われるであろう、裁判の証拠としても使えるものになるはずだ、と。
「行動は思考に引っ張られるから、前向きに考えないと!
私も意地になっていた部分があった。
今回の件で皆が、私の事をまだ親友だよって言ってくれて、本当に嬉しかった。
……ごめんね。
変な意地張って、自分の気持ちに気付かないフリしてた。
今まで他人に首突っ込んでばっかりだった。
だけど、ちゃんと自分のことも大事にしたい。
ここにいる皆みたいに、私を大事にしてくれる人も大事にしたい!
サークルにも出られていないし、クリスマス時期に美冬のラジオ番組にお邪魔するの、楽しみにしてたのに出来なかったし。
そろそろやりたいなって、思えてきたから」
「いいと思う!
ウチの学園の教師が、いくら防犯だなんだっていっても、実感わかないだろうし。
再現ドラマ作るのは、良いと思うな!」
「作ることで、深月ちゃんが少しでも前向きになれるなら、いいと思う。
俺も、道明くんも。
なんなら拓実くんも。
協力してくれると思うよ」
「私は、深月を応援するよ」
心は決まった。
親友皆が、再び一致団結した。
この光景は久しぶりで、私も胸がいっぱいになった。