ビターチョコ
ある日のことだった。
学校帰りに、麗眞くんの豪華な家に集まる機会があった。
その時に、深月から話があった。
中学生の頃に、親友を目の前で亡くしたこと。
その亡くした女の子の母親とは、今でも交流はあったものの、最近は疎遠になっていたこと。
屋上からその子が飛び降りてからというもの、「屋上」という場所が怖くて入れないでいたこと。
当時は気付かないでいたが、最近になって秋山くんへの特別な気持ちに気付いたこと。
まだ、強姦された心の傷が消えないことを分かっているのか、遠回しに告白してきただけで、深月自身もまだ返事をしていないこと。
この手の話は大好物の華恋と椎菜が、深月の話し相手になっていた。
本来集まった目的が、中間試験の勉強のはずだったのだが、当初の目的をすっかり忘れてしまっている。
……皆、それでいいの?
結局、ろくすっぽ勉強なんて出来ないまま、私がバイトに行く時間になっていた。
「あれ?理名、今日バイトなの?」
「そうだよ。
試験前、最後のバイトなんだ」
教科書数種類を鞄に詰め終わって、はちきれんばかりのそれを見た相沢さんが、話しかけてきた。
「荷物が大変でしょう。
それに、働き始めたばかりで遅れては今後に支障も出るかと。
場所をお教えくだされば、そちらまでお送りしましょう」
お言葉に甘えさせてもらった。
送ってもらう社内でシフト表を見ると、拓実くんは試験勉強のため、今日から休みとなっていた。
会えないことを、とても寂しく思った。
「おや、理名様。
顔が暗いですよ。
どこか具合でも悪いのですか?
お疲れなだけでしょうか」
相沢さんにまで心配させてしまった。
拓実くんが今日はバイト先にいないため、不安で寂しいということは言えない。
きっと椎菜や深月たちの、格好のネタになる。
……いけないいけない。
医療従事者として失格だ。
「何か悩み事等があれば、他の方にご相談されてもよろしいのではないですか?
他のご学友たちに話のネタにされるのが嫌、とおっしゃるなら、麗眞坊ちゃまに話を通してはいかがでしょう。
私や、麗眞坊ちゃまの姉、彩様にお話することも可能でございます。
……皆さん、口が堅い方ばかりですので、どうぞご安心を」
「ありがとうございます」
機会があれば、話してみてもいいかな。
素直にそう思った。
やがて車はバイト先のカフェにほど近い路地に停まり、私は車を降りて、相沢さんにお礼を言った。
「どういたしまして。
理名様も、帰りはどうぞ、お気をつけて」
恭しく頭を下げると、立派な外車を運転して麗眞くんの家へと戻っていった。
拓実くんがいない以外は、バイトはいつもどおりだった。
少し仕事に慣れてきて、率先してホールへの声掛けも行えるようになった。
まかないも美味しかったし、満足だ。
バイトが終わって携帯を見ると、拓実くんから1件のメールが入っていた。
『バイトお疲れ様!
試験前、最後だったでしょ?
疲れただろうから、ゆっくり休んで』
恋人なんかじゃないのに、恋人に送られるみたいな文面が、少しこそばゆかった。
学校帰りに、麗眞くんの豪華な家に集まる機会があった。
その時に、深月から話があった。
中学生の頃に、親友を目の前で亡くしたこと。
その亡くした女の子の母親とは、今でも交流はあったものの、最近は疎遠になっていたこと。
屋上からその子が飛び降りてからというもの、「屋上」という場所が怖くて入れないでいたこと。
当時は気付かないでいたが、最近になって秋山くんへの特別な気持ちに気付いたこと。
まだ、強姦された心の傷が消えないことを分かっているのか、遠回しに告白してきただけで、深月自身もまだ返事をしていないこと。
この手の話は大好物の華恋と椎菜が、深月の話し相手になっていた。
本来集まった目的が、中間試験の勉強のはずだったのだが、当初の目的をすっかり忘れてしまっている。
……皆、それでいいの?
結局、ろくすっぽ勉強なんて出来ないまま、私がバイトに行く時間になっていた。
「あれ?理名、今日バイトなの?」
「そうだよ。
試験前、最後のバイトなんだ」
教科書数種類を鞄に詰め終わって、はちきれんばかりのそれを見た相沢さんが、話しかけてきた。
「荷物が大変でしょう。
それに、働き始めたばかりで遅れては今後に支障も出るかと。
場所をお教えくだされば、そちらまでお送りしましょう」
お言葉に甘えさせてもらった。
送ってもらう社内でシフト表を見ると、拓実くんは試験勉強のため、今日から休みとなっていた。
会えないことを、とても寂しく思った。
「おや、理名様。
顔が暗いですよ。
どこか具合でも悪いのですか?
お疲れなだけでしょうか」
相沢さんにまで心配させてしまった。
拓実くんが今日はバイト先にいないため、不安で寂しいということは言えない。
きっと椎菜や深月たちの、格好のネタになる。
……いけないいけない。
医療従事者として失格だ。
「何か悩み事等があれば、他の方にご相談されてもよろしいのではないですか?
他のご学友たちに話のネタにされるのが嫌、とおっしゃるなら、麗眞坊ちゃまに話を通してはいかがでしょう。
私や、麗眞坊ちゃまの姉、彩様にお話することも可能でございます。
……皆さん、口が堅い方ばかりですので、どうぞご安心を」
「ありがとうございます」
機会があれば、話してみてもいいかな。
素直にそう思った。
やがて車はバイト先のカフェにほど近い路地に停まり、私は車を降りて、相沢さんにお礼を言った。
「どういたしまして。
理名様も、帰りはどうぞ、お気をつけて」
恭しく頭を下げると、立派な外車を運転して麗眞くんの家へと戻っていった。
拓実くんがいない以外は、バイトはいつもどおりだった。
少し仕事に慣れてきて、率先してホールへの声掛けも行えるようになった。
まかないも美味しかったし、満足だ。
バイトが終わって携帯を見ると、拓実くんから1件のメールが入っていた。
『バイトお疲れ様!
試験前、最後だったでしょ?
疲れただろうから、ゆっくり休んで』
恋人なんかじゃないのに、恋人に送られるみたいな文面が、少しこそばゆかった。