ビターチョコ
「ごめん皆!
先に、教室戻ってて!」
私は、そういえば職員室に寄るように言われてたんだった。
「じゃあ、私は理名の分の教科書とかノートとかも持って生物の教室向かってるね!」
「ありがと深月!」
深月には救われたが、授業は確実に遅刻だな。
そう思いながら職員室に向かう。
律儀に扉をノックすると、先程アナウンスしていた学年主任の先生がいた。
「おお、岩崎か。
お前はいいことをしたな」
先生はほぼ授業で出払っているため、人が少ない職員室には、その場に相応しくない、赤ちゃんを抱いた女性がいた。
身長は私より少し低いが、少しふくよかなのはまだ産後の身体から回復しきれていないのだろう。
「こんにちは」
柔らかく微笑んだその女性に、小声でこんにちはと返して、会釈をする。
「あのとき、ホームで私を助けてくれた高校生よね?
隣にいたのは彼氏さんかしら?
ありがとう!
あなたのおかげで、無事にこの子を産むことが出来たから、そのお礼にと思って。
正瞭賢っていうのだけは、特徴的で覚えていたから学校を調べて、直接お礼を言いたいと無理を言ってね。
これ、良かったら食べて」
菓子折りまで渡されてしまった。
オシャレな紙袋に入っているのがまたセンスがいい。
そこまで言われて、はたと気づく。
この女性は、去年のクリスマスに拓実くんと一緒に助けた、破水していた女性か。
「逆に素敵なお気遣いを頂いて、ありがとうございます。
医療従事者を目指す者として、目の前で苦しんでいる人を放っておけなかっただけですから」
「それにしても、助かったわ。
迅速に駅員さん、私の旦那なんだけどね……
も呼んでくれて嬉しかった。
お世話になってる病院に電話まで掛けてくれるなんて。
普通じゃできないわ。
制服だと男の子に見えちゃうわね、でもちゃんと女の子よ。
母子手帳に気づくあたりはね。
高校生とは思えなかった。
もう一人の男の子には直接SNSで連絡が取れたから、直接渡してきたのよ、昨日ね。
その子も、今の貴女と同じような台詞を言ってたわ。
じゃあ、授業を受けることが仕事の学生さんをこれ以上拘束するわけにいかないから、私はこれで失礼します」
最後に、私にありがとうとお礼を言ったあと、耳元で何事か囁いて、その女性は職員室を出ていった。
「岩崎。
もう用事は済んだな。
早くそれ、自分の教室のロッカーに置いてから授業に行けよ。
あと10分後に生物の授業始めるぞ」
「待ってください、主任。
あと5分だけ、岩崎さんに話が」
私を引き留めたのは、前の学年で短い間だったが担任だった三上夏南先生だ。
世界史の教師をしている。
美人で可愛くてスタイルもいいため、男子生徒からは人気だ。
「理名ちゃん、ごめんなさいね、引き止めて。
たまたま地域新聞に載ってたの、
私の弟と私の父が、無理心中しようとしていた母と娘を助けて警察から表彰されたって話題。
うまくぼかされてるけど、さっきの学年集会で話聞いて、この記事に出てくる親子って、美川さん親子じゃないかなって、思って」
その地域新聞をカラーコピーした記事だろう、それを渡してくれた三上先生。
「それだけ伝えたかっただけなの。
ごめんね、引き止めて。
じゃあ、授業頑張って!」
「岩崎。
今度こそあと10分で授業始めるからな!」
急かすことないじゃん、あの学年主任。
そう文句を言いながらも、教室のロッカーに紙袋から出したお菓子を入れた。
新聞記事のコピーはワイシャツの胸ポケットに突っ込んだ。
急いでドアを開けて教室に入ると、皆の視線が一斉に集まって気まずかったが、深月と椎菜が手招きしてくれた。
「深月、ありがと。
重かったでしょ」
「全然重くなかったよ、大丈夫。
お母さんの大量の資料に比べれば、可愛いもんよ」
そっか、暇があれば、お母さんの研究の手伝いも、してるんだっけ……
部活(しかも軽音楽と演劇の掛け持ち)に母親の手伝いに勉強に。
塾も探しているようだし、たまに生徒会の手伝いまでしている。
わらじ、何足履いてるんだろ。
蛙の子は蛙、ということだろう。
母と娘で似すぎている。
秋山くんに心配されるよ?
「んで?用事って何だったの?
理名」
椎菜が目を輝かせて聞いてきた。
どうしよう、今話すと長くなるんだよな……
とてもこんな時間では話しきれない。
昼休みに話すよと言った瞬間に先生がドアを開けて教室へ入ってきた。
今回ばかりは助かった……
先生に感謝だ。
先に、教室戻ってて!」
私は、そういえば職員室に寄るように言われてたんだった。
「じゃあ、私は理名の分の教科書とかノートとかも持って生物の教室向かってるね!」
「ありがと深月!」
深月には救われたが、授業は確実に遅刻だな。
そう思いながら職員室に向かう。
律儀に扉をノックすると、先程アナウンスしていた学年主任の先生がいた。
「おお、岩崎か。
お前はいいことをしたな」
先生はほぼ授業で出払っているため、人が少ない職員室には、その場に相応しくない、赤ちゃんを抱いた女性がいた。
身長は私より少し低いが、少しふくよかなのはまだ産後の身体から回復しきれていないのだろう。
「こんにちは」
柔らかく微笑んだその女性に、小声でこんにちはと返して、会釈をする。
「あのとき、ホームで私を助けてくれた高校生よね?
隣にいたのは彼氏さんかしら?
ありがとう!
あなたのおかげで、無事にこの子を産むことが出来たから、そのお礼にと思って。
正瞭賢っていうのだけは、特徴的で覚えていたから学校を調べて、直接お礼を言いたいと無理を言ってね。
これ、良かったら食べて」
菓子折りまで渡されてしまった。
オシャレな紙袋に入っているのがまたセンスがいい。
そこまで言われて、はたと気づく。
この女性は、去年のクリスマスに拓実くんと一緒に助けた、破水していた女性か。
「逆に素敵なお気遣いを頂いて、ありがとうございます。
医療従事者を目指す者として、目の前で苦しんでいる人を放っておけなかっただけですから」
「それにしても、助かったわ。
迅速に駅員さん、私の旦那なんだけどね……
も呼んでくれて嬉しかった。
お世話になってる病院に電話まで掛けてくれるなんて。
普通じゃできないわ。
制服だと男の子に見えちゃうわね、でもちゃんと女の子よ。
母子手帳に気づくあたりはね。
高校生とは思えなかった。
もう一人の男の子には直接SNSで連絡が取れたから、直接渡してきたのよ、昨日ね。
その子も、今の貴女と同じような台詞を言ってたわ。
じゃあ、授業を受けることが仕事の学生さんをこれ以上拘束するわけにいかないから、私はこれで失礼します」
最後に、私にありがとうとお礼を言ったあと、耳元で何事か囁いて、その女性は職員室を出ていった。
「岩崎。
もう用事は済んだな。
早くそれ、自分の教室のロッカーに置いてから授業に行けよ。
あと10分後に生物の授業始めるぞ」
「待ってください、主任。
あと5分だけ、岩崎さんに話が」
私を引き留めたのは、前の学年で短い間だったが担任だった三上夏南先生だ。
世界史の教師をしている。
美人で可愛くてスタイルもいいため、男子生徒からは人気だ。
「理名ちゃん、ごめんなさいね、引き止めて。
たまたま地域新聞に載ってたの、
私の弟と私の父が、無理心中しようとしていた母と娘を助けて警察から表彰されたって話題。
うまくぼかされてるけど、さっきの学年集会で話聞いて、この記事に出てくる親子って、美川さん親子じゃないかなって、思って」
その地域新聞をカラーコピーした記事だろう、それを渡してくれた三上先生。
「それだけ伝えたかっただけなの。
ごめんね、引き止めて。
じゃあ、授業頑張って!」
「岩崎。
今度こそあと10分で授業始めるからな!」
急かすことないじゃん、あの学年主任。
そう文句を言いながらも、教室のロッカーに紙袋から出したお菓子を入れた。
新聞記事のコピーはワイシャツの胸ポケットに突っ込んだ。
急いでドアを開けて教室に入ると、皆の視線が一斉に集まって気まずかったが、深月と椎菜が手招きしてくれた。
「深月、ありがと。
重かったでしょ」
「全然重くなかったよ、大丈夫。
お母さんの大量の資料に比べれば、可愛いもんよ」
そっか、暇があれば、お母さんの研究の手伝いも、してるんだっけ……
部活(しかも軽音楽と演劇の掛け持ち)に母親の手伝いに勉強に。
塾も探しているようだし、たまに生徒会の手伝いまでしている。
わらじ、何足履いてるんだろ。
蛙の子は蛙、ということだろう。
母と娘で似すぎている。
秋山くんに心配されるよ?
「んで?用事って何だったの?
理名」
椎菜が目を輝かせて聞いてきた。
どうしよう、今話すと長くなるんだよな……
とてもこんな時間では話しきれない。
昼休みに話すよと言った瞬間に先生がドアを開けて教室へ入ってきた。
今回ばかりは助かった……
先生に感謝だ。