ビターチョコ
「着いたー!
楽しみ!」
「行こ!」
皆で電車を降りて、階段を上がり、改札を抜けてショッピングモールに向かう。
親子連れは何組か見かけたが、私たちと同じ年代の人はほとんど見なかった。
学園の方針に感謝だ。
平日を休みにしてくれたことに、ありがとうと言いたい。
華恋と美冬が先頭だ。
その後を琥珀ちゃんと私でついていく。
ショッピングモール内に入ると、美冬と華恋が私と琥珀ちゃんをいろいろな店に案内した。
華恋の手には、フロアマップがしっかりと握られていた。
まずはレースのパンツと透ける素材のシャツを店員さんと華恋と美冬が褒めまくることでお買い上げさせた。
「パンツとはいえレース、あんまり履いたことないから大丈夫かなぁ」
琥珀ちゃんが不安そうに呟いた。
「大丈夫。
琥珀ちゃんに似合う色を持ってきつつ、ギャップで巽くんをドキッとさせる!
未来図はちゃんと私が描いてるから!
これでも、コーディネートが上手い美冬と中学の頃から親友やってないからね。
ちょっとは美冬に学んだし。
自分で再現できないコーデは人に組ませない、ってね」
華恋が自信満々だ。
「そうそう。
琥珀ちゃん、華恋を信じなさい」
流行の服がプチプラで手に入る店に、琥珀ちゃんを連行した。
茶色とベージュを足して2で割ったような色味のタンクトップと、白いノースリハイネックトップス。
裏地のないブラウンがベースの花柄キャミソールワンピースをお買い上げさせた。
しかもワンピースと半袖のカーディガンが2点セットになっていた。
この店での買い物は終了だ。
最後に、オレンジがかったレーススカートと、美冬オススメの下着屋でペアの下着上下を購入させて、お買い物は終了となった。
皆でモール内にあるファーストフード店に入った。
それぞれがハンバーガーとポテトとドリンクを買う。
それらを食べながらガールズトークに興じる。
「あ!
えっと、どうしよ!
華恋、なんて返事すればいいかな?」
携帯を開いた琥珀ちゃんが慌てている。
巽くんから土曜日の11時に私達が今いるショッピングモールの最寄り駅で良いかどうか尋ねるメールが来ていたのだ。
「えっと、私が琥珀ちゃんの立場で打つなら、こんな感じにするかな?
『うん!それでOKだよー!
巽くんも忙しいのに、時間と場所決めてくれてありがと!
楽しみにしてるねー!』
って感じでいいのよ、メールなんて」
「うん、それで違和感ないと思うよ」
さすが、現代文が得意な美冬だ。
琥珀ちゃんがメールを送信し終わるのを待つ間に、私は美冬と華恋に相談を持ちかけていた。
しばらく会えなくなるので、拓実くんに何かプレゼントしたいと思ったのだ。
ただ、生まれてこの方、男の人にプレゼントなんて買ったことがない。
プレゼントとして何を選べばいいか分からないのだ。
「なるほどね。そういうことなら、これ食べたら選ぼっか!
何なら賢人とか秋山くん、麗眞くんにも聞いてみる?
多分一緒にいるはずだから、賢人に連絡取れば皆が意見くれるはずだよ」
「ありがと美冬……」
持つべきものは彼氏持ちの友達だ。
「オッケー、分かったわ。
じゃあ、私は深月に連絡とってみるわね」
椎菜の名前を出さない辺りは、体調が思わしくないという、彼女への配慮なのだろうか。
ハンバーガーとポテトがなくなる頃、巽くんから楽しみにしてるという趣旨のメールが来て、琥珀ちゃんはまた慌てていた。
残ったドリンクを飲み干しながら、琥珀ちゃんが話し出す。
「巽くんがいるバレー部のマネージャー、やろうとは思ってるの。
ちょっとでも巽くんの近くにいれるように。
それって、下心あるって、思われちゃうかな」
いつも決断が早く、物怖じしない性格の琥珀ちゃんが、自ら弱気な言葉を吐く。
「大丈夫。
少なくとも私はね、そんなこと思わないわ」
「私もだよー、琥珀ちゃん。
付き合っちゃえばこっちのもんよ。
私も、中学の頃はバスケ部の先輩に告りたくて
練習、よく見に行ってたし。
それで1年くらい先輩と付き合ってたし。
大丈夫!
まぁ、私はその先輩が遠くの私立高校を受験するって知ってたから、負担にならないように、私から身を引いたんだだけどね」
恋愛のカリスマ、華恋の本領発揮のエピソードだ。
「うん、私もそう思う。
好きな人に近づくための努力をしてるだけで、法律に引っかかる危ない追いかけ方してるんじゃないんだし。
堂々とマネージャーやればいいと思うよ。
何か言ってくる輩は、琥珀ちゃんが得意の武術で目に物見せるか、巽くんが退けてくれるはずでしょ?
巽くんが琥珀ちゃんに本当に気があるなら、多分」
私がそう言うと、琥珀ちゃんはニッコリ微笑んでくれた。
「ありがと、皆。
やっぱり、今日来てよかった」
ドリンクを飲み終えたので、ファーストフード店を出て、いろいろなお店が立ち並ぶモール内のフロアに戻った。
「理名。
賢人たちからメール、来たよ。
えっとね、ノイズキャンセリング機能付きのヘッドホンかイヤホンがいいんじゃないか。
これは賢人ね?
秋山くんは部屋で着れるパジャマかルームウェア。
麗眞くんは物じゃなくて、素直に理名ちゃんからの告白の返事のほうが嬉しいとは思うんだけど。
敢えてプレゼントにするなら、腕時計とかキーケースとかいいんじゃないか』
だって。
「もう、本人がいないからって。
好き勝手言わないでよー!」
悩みに悩んだ末に、パジャマかルームウェアに決めた。
華恋がオススメの部屋着屋さんは、女性のものが中心で、男性用は数が少なかった。
ホテルにあるようなサテンのロングパジャマと長ズボンのセットにした。
「さり気なくお揃い着てる、って言うのもいいんじゃない?」
「そうそう、私だったらTV電話とかしてて、さり気なくお揃いって分かると、カップル感が出て嬉しいし。
いつか、賢人にプレゼントするかな。
私もお揃い着たい」
美冬や琥珀ちゃんがそんなことを言うから、自分用にも買ってしまった。
ああ、一番多い桁のお札が3枚ほどお財布から飛んでいってしまった。
まぁ、こんなこともあろうかと、バイト代を多めに持ってきていて正解だった。
「よし、用事は終わりだね!
帰る前にプリクラ取ろうよプリクラ!」
プリクラ、とはなんだろう。
美冬や華恋に連行されて、プリクラ機の前でいろいろポーズを決めさせられる。
美冬や華恋、琥珀ちゃんによって写真にいろいろ落書きをされた。
出来上がったプリクラを見ると、私は戸惑ったような顔ばかりしていた。
その中でも1枚だけ。ちゃんと私も笑顔で写っている写真がある。
そこには、皆の将来の夢が書かれていた。
美冬はアナウンサー、華恋はウェディングプランナー。
私は医者。
琥珀ちゃんがピースしながら写る横には、警察官か音楽の先生か、決めかねる。
と書かれていた。
警察官も似合うだろうけど、音楽の先生の方がしっくりくると思うのは私だけだろうか。
さて、プリクラも撮ったし、用事は終わったよね?
皆、最寄り駅の改札は出ないでね!
ショッピングモールの広場側に移動するよ!
そこのベンチで相沢さん、待ってるって」
いつの間に連絡したんだろう。
そして、相沢さんがもういるとは。
さすが、仕事が早い。
皆でショッピングモールの広場側まで連絡通路を超えて歩く。
「相沢さーん!」
相沢さんに手を振る美冬。
「おや、これは皆様お揃いで。
お買い物を存分に楽しまれたようで、何よりです」
相沢さんは去年と同じで、相変わらず夏だというのに執事服だ。
暑くないのだろうか。
行きより小型の車に皆で乗る。
「皆様、タイミングがよろしゅうございましたね。
ちょうど、皆様でアフタヌーンティーを楽しむご予定でございました。
理名さまたちが帰ってきてからでもよろしいかと皆様に問うと、誰一人否定することなく、頷いておられましたから」
「アフタヌーンティーか。
家でもやったことないや」
琥珀ちゃんがポツリと呟く。
やろうにも、人がいないんじゃやりようがないよな、と思った。
「それにしても美冬、何、相沢さんにあんなに手を振って。
しかも昨日ほどではないけど肩の出る服で。
傍から見たらカレカノじゃん。
小野寺くんに言いつけちゃお。
そのうちアンタも、椎菜みたいに腰やら脚が痛い、って言って擦ってるかもね」
「あれは別に、そんなつもりじゃ……!
だって、人いっぱいいたし分かりづらいかなって」
美冬は何やら華恋に冷やかされている。
「ところで、椎菜は大丈夫なんですか?」
「椎菜様ですか。
先程まで屋敷にいたので、私も様子を見ておりましたが、薬が効いたようです。
少しマシになったとおっしゃっておりました。
このまま経過が良ければ少しの間、アフタヌーンティーに参加すると思われます。
ただ、相変わらず麗眞坊っちゃまは彼女に会えないようで不満を漏らしておりましたが」
「当たり前よねぇ。
賢人から聞いたよ。
麗眞くん、椎菜が高熱とはいかなくても熱出したときも、体温上げるためって口実で、服の下に、手を入れて触ってくるのがしょっちゅうなんだって。
それには本当に困ってるみたい。」
「麗眞坊っちゃまには少し私も手を焼いております。
何しろ有り余りすぎてますからね。
専属医師等を雇って、椎菜様が体調を崩された際には、坊っちゃまを近づけさせないようにしなければならなくなるやもしれません」
専属医師雇えるって、すごいな……
「相沢さん、ちゃんと念のために教育したほうがいいよ?
このままじゃいつ椎菜ちゃんを孕ませてもおかしくないって。
高校生のうち、って言うのも困るだろうけど。
彼女は獣医師志望で狙う大学もレベル高い上に入学してからも大変、って聞くし。
あなたが仕える主が、将来有望な獣医師志望の子を妊娠させて、将来フイにさせるって、ちょっとマズイと思う」
「私も常々言い聞かせてはいるのですがね……
そこはちゃんとしているからとの一点張りでして」
「そういう言葉が一番怪しいんだよね」
平日の昼に相応しくない話題が出た車は、大きくて広い門構えの家の前に止まった。
相沢さんが手袋を外してドアの横に手をかざすとガラガラと音を立てて扉が開いた。
楽しみ!」
「行こ!」
皆で電車を降りて、階段を上がり、改札を抜けてショッピングモールに向かう。
親子連れは何組か見かけたが、私たちと同じ年代の人はほとんど見なかった。
学園の方針に感謝だ。
平日を休みにしてくれたことに、ありがとうと言いたい。
華恋と美冬が先頭だ。
その後を琥珀ちゃんと私でついていく。
ショッピングモール内に入ると、美冬と華恋が私と琥珀ちゃんをいろいろな店に案内した。
華恋の手には、フロアマップがしっかりと握られていた。
まずはレースのパンツと透ける素材のシャツを店員さんと華恋と美冬が褒めまくることでお買い上げさせた。
「パンツとはいえレース、あんまり履いたことないから大丈夫かなぁ」
琥珀ちゃんが不安そうに呟いた。
「大丈夫。
琥珀ちゃんに似合う色を持ってきつつ、ギャップで巽くんをドキッとさせる!
未来図はちゃんと私が描いてるから!
これでも、コーディネートが上手い美冬と中学の頃から親友やってないからね。
ちょっとは美冬に学んだし。
自分で再現できないコーデは人に組ませない、ってね」
華恋が自信満々だ。
「そうそう。
琥珀ちゃん、華恋を信じなさい」
流行の服がプチプラで手に入る店に、琥珀ちゃんを連行した。
茶色とベージュを足して2で割ったような色味のタンクトップと、白いノースリハイネックトップス。
裏地のないブラウンがベースの花柄キャミソールワンピースをお買い上げさせた。
しかもワンピースと半袖のカーディガンが2点セットになっていた。
この店での買い物は終了だ。
最後に、オレンジがかったレーススカートと、美冬オススメの下着屋でペアの下着上下を購入させて、お買い物は終了となった。
皆でモール内にあるファーストフード店に入った。
それぞれがハンバーガーとポテトとドリンクを買う。
それらを食べながらガールズトークに興じる。
「あ!
えっと、どうしよ!
華恋、なんて返事すればいいかな?」
携帯を開いた琥珀ちゃんが慌てている。
巽くんから土曜日の11時に私達が今いるショッピングモールの最寄り駅で良いかどうか尋ねるメールが来ていたのだ。
「えっと、私が琥珀ちゃんの立場で打つなら、こんな感じにするかな?
『うん!それでOKだよー!
巽くんも忙しいのに、時間と場所決めてくれてありがと!
楽しみにしてるねー!』
って感じでいいのよ、メールなんて」
「うん、それで違和感ないと思うよ」
さすが、現代文が得意な美冬だ。
琥珀ちゃんがメールを送信し終わるのを待つ間に、私は美冬と華恋に相談を持ちかけていた。
しばらく会えなくなるので、拓実くんに何かプレゼントしたいと思ったのだ。
ただ、生まれてこの方、男の人にプレゼントなんて買ったことがない。
プレゼントとして何を選べばいいか分からないのだ。
「なるほどね。そういうことなら、これ食べたら選ぼっか!
何なら賢人とか秋山くん、麗眞くんにも聞いてみる?
多分一緒にいるはずだから、賢人に連絡取れば皆が意見くれるはずだよ」
「ありがと美冬……」
持つべきものは彼氏持ちの友達だ。
「オッケー、分かったわ。
じゃあ、私は深月に連絡とってみるわね」
椎菜の名前を出さない辺りは、体調が思わしくないという、彼女への配慮なのだろうか。
ハンバーガーとポテトがなくなる頃、巽くんから楽しみにしてるという趣旨のメールが来て、琥珀ちゃんはまた慌てていた。
残ったドリンクを飲み干しながら、琥珀ちゃんが話し出す。
「巽くんがいるバレー部のマネージャー、やろうとは思ってるの。
ちょっとでも巽くんの近くにいれるように。
それって、下心あるって、思われちゃうかな」
いつも決断が早く、物怖じしない性格の琥珀ちゃんが、自ら弱気な言葉を吐く。
「大丈夫。
少なくとも私はね、そんなこと思わないわ」
「私もだよー、琥珀ちゃん。
付き合っちゃえばこっちのもんよ。
私も、中学の頃はバスケ部の先輩に告りたくて
練習、よく見に行ってたし。
それで1年くらい先輩と付き合ってたし。
大丈夫!
まぁ、私はその先輩が遠くの私立高校を受験するって知ってたから、負担にならないように、私から身を引いたんだだけどね」
恋愛のカリスマ、華恋の本領発揮のエピソードだ。
「うん、私もそう思う。
好きな人に近づくための努力をしてるだけで、法律に引っかかる危ない追いかけ方してるんじゃないんだし。
堂々とマネージャーやればいいと思うよ。
何か言ってくる輩は、琥珀ちゃんが得意の武術で目に物見せるか、巽くんが退けてくれるはずでしょ?
巽くんが琥珀ちゃんに本当に気があるなら、多分」
私がそう言うと、琥珀ちゃんはニッコリ微笑んでくれた。
「ありがと、皆。
やっぱり、今日来てよかった」
ドリンクを飲み終えたので、ファーストフード店を出て、いろいろなお店が立ち並ぶモール内のフロアに戻った。
「理名。
賢人たちからメール、来たよ。
えっとね、ノイズキャンセリング機能付きのヘッドホンかイヤホンがいいんじゃないか。
これは賢人ね?
秋山くんは部屋で着れるパジャマかルームウェア。
麗眞くんは物じゃなくて、素直に理名ちゃんからの告白の返事のほうが嬉しいとは思うんだけど。
敢えてプレゼントにするなら、腕時計とかキーケースとかいいんじゃないか』
だって。
「もう、本人がいないからって。
好き勝手言わないでよー!」
悩みに悩んだ末に、パジャマかルームウェアに決めた。
華恋がオススメの部屋着屋さんは、女性のものが中心で、男性用は数が少なかった。
ホテルにあるようなサテンのロングパジャマと長ズボンのセットにした。
「さり気なくお揃い着てる、って言うのもいいんじゃない?」
「そうそう、私だったらTV電話とかしてて、さり気なくお揃いって分かると、カップル感が出て嬉しいし。
いつか、賢人にプレゼントするかな。
私もお揃い着たい」
美冬や琥珀ちゃんがそんなことを言うから、自分用にも買ってしまった。
ああ、一番多い桁のお札が3枚ほどお財布から飛んでいってしまった。
まぁ、こんなこともあろうかと、バイト代を多めに持ってきていて正解だった。
「よし、用事は終わりだね!
帰る前にプリクラ取ろうよプリクラ!」
プリクラ、とはなんだろう。
美冬や華恋に連行されて、プリクラ機の前でいろいろポーズを決めさせられる。
美冬や華恋、琥珀ちゃんによって写真にいろいろ落書きをされた。
出来上がったプリクラを見ると、私は戸惑ったような顔ばかりしていた。
その中でも1枚だけ。ちゃんと私も笑顔で写っている写真がある。
そこには、皆の将来の夢が書かれていた。
美冬はアナウンサー、華恋はウェディングプランナー。
私は医者。
琥珀ちゃんがピースしながら写る横には、警察官か音楽の先生か、決めかねる。
と書かれていた。
警察官も似合うだろうけど、音楽の先生の方がしっくりくると思うのは私だけだろうか。
さて、プリクラも撮ったし、用事は終わったよね?
皆、最寄り駅の改札は出ないでね!
ショッピングモールの広場側に移動するよ!
そこのベンチで相沢さん、待ってるって」
いつの間に連絡したんだろう。
そして、相沢さんがもういるとは。
さすが、仕事が早い。
皆でショッピングモールの広場側まで連絡通路を超えて歩く。
「相沢さーん!」
相沢さんに手を振る美冬。
「おや、これは皆様お揃いで。
お買い物を存分に楽しまれたようで、何よりです」
相沢さんは去年と同じで、相変わらず夏だというのに執事服だ。
暑くないのだろうか。
行きより小型の車に皆で乗る。
「皆様、タイミングがよろしゅうございましたね。
ちょうど、皆様でアフタヌーンティーを楽しむご予定でございました。
理名さまたちが帰ってきてからでもよろしいかと皆様に問うと、誰一人否定することなく、頷いておられましたから」
「アフタヌーンティーか。
家でもやったことないや」
琥珀ちゃんがポツリと呟く。
やろうにも、人がいないんじゃやりようがないよな、と思った。
「それにしても美冬、何、相沢さんにあんなに手を振って。
しかも昨日ほどではないけど肩の出る服で。
傍から見たらカレカノじゃん。
小野寺くんに言いつけちゃお。
そのうちアンタも、椎菜みたいに腰やら脚が痛い、って言って擦ってるかもね」
「あれは別に、そんなつもりじゃ……!
だって、人いっぱいいたし分かりづらいかなって」
美冬は何やら華恋に冷やかされている。
「ところで、椎菜は大丈夫なんですか?」
「椎菜様ですか。
先程まで屋敷にいたので、私も様子を見ておりましたが、薬が効いたようです。
少しマシになったとおっしゃっておりました。
このまま経過が良ければ少しの間、アフタヌーンティーに参加すると思われます。
ただ、相変わらず麗眞坊っちゃまは彼女に会えないようで不満を漏らしておりましたが」
「当たり前よねぇ。
賢人から聞いたよ。
麗眞くん、椎菜が高熱とはいかなくても熱出したときも、体温上げるためって口実で、服の下に、手を入れて触ってくるのがしょっちゅうなんだって。
それには本当に困ってるみたい。」
「麗眞坊っちゃまには少し私も手を焼いております。
何しろ有り余りすぎてますからね。
専属医師等を雇って、椎菜様が体調を崩された際には、坊っちゃまを近づけさせないようにしなければならなくなるやもしれません」
専属医師雇えるって、すごいな……
「相沢さん、ちゃんと念のために教育したほうがいいよ?
このままじゃいつ椎菜ちゃんを孕ませてもおかしくないって。
高校生のうち、って言うのも困るだろうけど。
彼女は獣医師志望で狙う大学もレベル高い上に入学してからも大変、って聞くし。
あなたが仕える主が、将来有望な獣医師志望の子を妊娠させて、将来フイにさせるって、ちょっとマズイと思う」
「私も常々言い聞かせてはいるのですがね……
そこはちゃんとしているからとの一点張りでして」
「そういう言葉が一番怪しいんだよね」
平日の昼に相応しくない話題が出た車は、大きくて広い門構えの家の前に止まった。
相沢さんが手袋を外してドアの横に手をかざすとガラガラと音を立てて扉が開いた。