ビターチョコ
曇らないように赤フレームの眼鏡を外して眼鏡ケースに収めてから、出来たてのパスタを一口頬張る。
たらこの風味が、スパイスになってなかなかの味だった。
2人に促されて、話の続きをする。
「あのね、これは私の推測であって、事実かわからない。
話半分で聞いてね。
私の父は、再婚相手でも決めようとしてるのかなって思うんだよね。
帰ってきた父親から、女性ものの香水の香りがするし」
「なるほど。
年頃の理名にどう接していいかわからないから再婚相手を見つける、って線もあるわね。
それなら香水も朝帰りも、派手なネクタイも説明がつく」
「でも!
理名ちゃんの母親が亡くなったのが中学3年生に進級した春って話なら、今ぐらいが亡くなってようやく1年経ったことになるよね。
そうだったら、ちょっとひどいよ!
理名ちゃんのお父さん、ほんとは理名ちゃんのお母さんのこと、そこまで愛してなかったんじゃないの?」
客観的に分析するのは浅川深月。
それに対して、感情的に、私の父を断罪しようとする柳下 碧。
興奮したからなのか、時々、柳下碧は苦しそうに咳き込む。
「……ほら、言わんこっちゃない。
少し落ち着きなさいな、碧。
えっと……再婚相手探しじゃないとすると。
仕事の部下とかに娘との接し方について相談してたとか?
それか、ご親族と一周忌に関しての話し合いとかも、可能性としてはありえるけど。
あ、いや、だとしても、そういうことするなら飲みながらとかでしょうし。
朝帰りまではしないはず。
それに、そういう話し合いなら、電話でもできるし。
そもそも、なんで理名ちゃんは、父親に対してムカつくって思うの?」
あくまで冷静に、自分の意見を述べて、足りない情報を補う。
彼女の母のカウンセリングの様子も、こんな感じなのだろうか。
「見た事ないの。
母親の仏壇に向かって父が手を合わせてる姿を一度も。
母の存在、早く忘れたいのかなって。
そのために、母の仏壇に花を供えたりもしないのかなって。
あの日、葬儀の後、お父さんにとってお母さんはどんな存在?って質問もはぐらかしてたし。
『大事な存在だ』って、たった一言。
それだけだった」
「理名ちゃんは、今でもお母さんのこと大好きなんだよね?」
水を飲んで落ち着いたらしい柳下碧の問いに、強く頷く。
「大好きだから結婚したはずの、お母さんの存在すら忘れて、他の女に気を向けたかもって思うと、ムカつくの。
やりきれないっていうか。
そもそも、何で母と結婚までしたんだって疑問も出てくるし」
「なるほど。それで父親にそういう態度取っちゃうのね。
ほんとに、父親と喧嘩したとか、険悪な雰囲気になったりとかしたら私の家に来ていいから。
名前は言わないけど、やんわりと私のお母さんに話してみるから。
もしかしたら、そういう時の対処方法を、教えてくれたりするかもだからさ」
「……ありがとう。
初めてだったから。
こういうこと話して、考え過ぎだとか突っぱねないで、ちゃんと聞いてくれた人」
「いいの。
私たち、友達でしょ?
変な遠慮しないで、理名ちゃん」
「ありがとう。
……深月ちゃん、碧ちゃん」
自然に、その言葉が口から出てきた。
それと同時に目頭が熱くなってきた。
こんなところで、「温かい友情」を知ったからって、泣くのは私らしくない。
そして、深月ちゃんだけでなく、隣にいる碧まで「ちゃん」付けで呼んでいた自分に驚いた。
「いいのいいの。
『碧ちゃん』って気軽に呼んでよ。
そのほうが嬉しいな」
「じゃあ、これからそう呼ぶね。
改めて、よろしく。
碧ちゃん、深月ちゃん」
私の言葉に、2人とも、とびきりの笑顔を見せてくれた。
たらこの風味が、スパイスになってなかなかの味だった。
2人に促されて、話の続きをする。
「あのね、これは私の推測であって、事実かわからない。
話半分で聞いてね。
私の父は、再婚相手でも決めようとしてるのかなって思うんだよね。
帰ってきた父親から、女性ものの香水の香りがするし」
「なるほど。
年頃の理名にどう接していいかわからないから再婚相手を見つける、って線もあるわね。
それなら香水も朝帰りも、派手なネクタイも説明がつく」
「でも!
理名ちゃんの母親が亡くなったのが中学3年生に進級した春って話なら、今ぐらいが亡くなってようやく1年経ったことになるよね。
そうだったら、ちょっとひどいよ!
理名ちゃんのお父さん、ほんとは理名ちゃんのお母さんのこと、そこまで愛してなかったんじゃないの?」
客観的に分析するのは浅川深月。
それに対して、感情的に、私の父を断罪しようとする柳下 碧。
興奮したからなのか、時々、柳下碧は苦しそうに咳き込む。
「……ほら、言わんこっちゃない。
少し落ち着きなさいな、碧。
えっと……再婚相手探しじゃないとすると。
仕事の部下とかに娘との接し方について相談してたとか?
それか、ご親族と一周忌に関しての話し合いとかも、可能性としてはありえるけど。
あ、いや、だとしても、そういうことするなら飲みながらとかでしょうし。
朝帰りまではしないはず。
それに、そういう話し合いなら、電話でもできるし。
そもそも、なんで理名ちゃんは、父親に対してムカつくって思うの?」
あくまで冷静に、自分の意見を述べて、足りない情報を補う。
彼女の母のカウンセリングの様子も、こんな感じなのだろうか。
「見た事ないの。
母親の仏壇に向かって父が手を合わせてる姿を一度も。
母の存在、早く忘れたいのかなって。
そのために、母の仏壇に花を供えたりもしないのかなって。
あの日、葬儀の後、お父さんにとってお母さんはどんな存在?って質問もはぐらかしてたし。
『大事な存在だ』って、たった一言。
それだけだった」
「理名ちゃんは、今でもお母さんのこと大好きなんだよね?」
水を飲んで落ち着いたらしい柳下碧の問いに、強く頷く。
「大好きだから結婚したはずの、お母さんの存在すら忘れて、他の女に気を向けたかもって思うと、ムカつくの。
やりきれないっていうか。
そもそも、何で母と結婚までしたんだって疑問も出てくるし」
「なるほど。それで父親にそういう態度取っちゃうのね。
ほんとに、父親と喧嘩したとか、険悪な雰囲気になったりとかしたら私の家に来ていいから。
名前は言わないけど、やんわりと私のお母さんに話してみるから。
もしかしたら、そういう時の対処方法を、教えてくれたりするかもだからさ」
「……ありがとう。
初めてだったから。
こういうこと話して、考え過ぎだとか突っぱねないで、ちゃんと聞いてくれた人」
「いいの。
私たち、友達でしょ?
変な遠慮しないで、理名ちゃん」
「ありがとう。
……深月ちゃん、碧ちゃん」
自然に、その言葉が口から出てきた。
それと同時に目頭が熱くなってきた。
こんなところで、「温かい友情」を知ったからって、泣くのは私らしくない。
そして、深月ちゃんだけでなく、隣にいる碧まで「ちゃん」付けで呼んでいた自分に驚いた。
「いいのいいの。
『碧ちゃん』って気軽に呼んでよ。
そのほうが嬉しいな」
「じゃあ、これからそう呼ぶね。
改めて、よろしく。
碧ちゃん、深月ちゃん」
私の言葉に、2人とも、とびきりの笑顔を見せてくれた。