ビターチョコ
「わぁ、成司くん、久しぶり!」

「ホントホント!

成司くんの両親の仕事が超多忙になったから、
成司くんが小学3年生のとき以来、会ってないよね!

元気だった?」

「あれ、小学生の時は眼鏡だったっけ。

いつの間にメガネ男子卒業したの?」

「中学生で卒業したよ。

琥珀の親父さんとか、空手の師匠から眼鏡は武術やる人にとっては危険しかない。

コンタクトレンズを勧める、って言われてな。

親父も、母もそれには賛成だったからとっとと変えたよ。

一部のクラスの女子にはメガネ似合ってたのに、勿体ない、って言われたけど」

「へぇ、成司、モテるんだ?」

「俺は、一目惚れしたあの子にしか興味ないからさ。

えっと、碧ちゃん、って言ったっけ、あの子。

俺はああいう、庇護欲掻き立てられる子のほうがタイプなの」

仲よさげに麗眞くん、椎菜、深月と言葉を交わす彼。

彼は私と美冬、小野寺くん、秋山くんに目をやる。

彼は爽やかな笑みを崩さないまま、名前と通学中の大学名を口にした。

確か、薬学部は研究熱心で、数年前に流行った新興感染症の治療薬もいち早く開発した実績があると記憶している。

その学部にいるのか、彼は。

グイ、と美冬を抱き寄せながら挨拶をしているのは小野寺くんだ。

「そういうこと?

麗眞は椎菜ちゃんと、深月ちゃんはおそらく、彫り深めで、鼻筋が通ってるイケメンくんが彼氏さんなのかな。

いいね、皆恋愛してて。
恋人同士、羨ましいよ」

「自分もそのうち碧ちゃんをモノにするんでしょうが」

深月にそうツッコまれたが、何食わぬ顔で答えを返した彼。

「ガッツいてアプローチするほど、俺は獣じゃないんでね?

今は新しい環境に慣れるのに大変だろうし、ゆっくりアプローチしていくよ。

頃合いを見て、紅茶専門店にでも連れて行くかな。

ここから3つ先、ショッピングモールが東口と西口にある駅分かる?

そこの西口側ショッピングモールに、シャレオツな紅茶専門店が出来たらしくてね。

紅茶好きらしいし、碧ちゃん」

その店を目ざとくスマホで調べた美冬が言う。

「おお、良さそうなお店!

今度行こうよ、賢人!」

「可愛い美冬の頼みなら、聞かないわけにいかないな。

文化祭終わったら、ご褒美な。

当日は公開収録もあるし」

「そっか。美冬ちゃんと小野寺くんは放送部なのか。

正瞭賢での活躍は友映を通じて聞いてるよ。

何せ、正瞭賢の前身は、賢正学園って名前でな。

俺の母も世話になったし、OGみたいなもんだからな」

え、そうなんだ……

「俺も行くかな、正瞭賢の文化祭。

中学生を狙う不埒な輩から守ってモテるのも、一興だし」

「全く、どこまでモテたいのよ」

「うん、でも、竹田みたいに、見境なく、って感じじゃないぶん、いいと思うよ。

好きな子もカッコよく助けてあげられたわけだし」

本人にとって地雷のはずの名前を、口走っても過呼吸を起こさない美冬。

彼女の頭を、小野寺くんが優しく撫でた。

「そういえば、そんな名前だったな。

あの男も。

碧ちゃんが発作起こしても汚いものを見るような目で彼女を見るだけで、介抱する素振りも見せなかったから、俺が助けたんだ」

碧を助けたときのエピソードを、彼は順を追って話してくれた。

そして、琥珀自身が危ない目にあったときも彼女を助けたという。

美冬が過去に遊ばれた竹田という男が中学生くらいの女子にちょっかいを出していた。

そこにたまたま居合わせた琥珀が助けたというのだ。

竹田の仲間にまでは、気が回らなかったらしい彼女。

それをすんでのところで助けたのが、この目の前にいる男らしい。

「俺からもお礼を言うよ、ありがとう。

俺がこうして美冬といられるのも、黒沢君のおかけだ」

「やめろよ、他人行儀だな。

歳上とはいえ同姓なんだ、成司(せいじ)でいいよ」

「……よろしく。
成司」

「深月を昔から知る者として、俺の知らない深月をいろいろと教えてくれ。

深月は何足もわらじを履くのが好きでな。

無茶するから、何かあったら困る」

「変わってないのな!

深月のお袋さんそっくりだ。

深月のお袋さんもそんな人だったよ。

自己犠牲精神が強いところは、お袋さんと親父さんの両方に似たかな」

美冬と華恋も、次々に自己紹介をしていく。

岩崎 理名(いわさき りな)です。

成司さん、でしたっけ。
よろしくお願いします。

親友として、また、未来の予定ではありますが。

彼女の将来の呼吸器内科医として、彼女をよろしくお願いします」

「任されたよ。

彼女以外本命じゃないから、安心して。

あ、医者志望ならウチの大学の学園祭も体感するといいかも。

医学部も確かあったはずだし。

教育レベルは高くないから、本命のところと比較するくらいで丁度いいんだけど」

コン、コン、と優しくドアをノックする音がした。

「麗眞坊ちゃまの執事の相沢です。

皆様、そろそろ日も暮れてきます。

いかがいたしましょう?

ご帰宅なされる方は、このままお送りいたしますが」

誰も帰るという返事をしなかった。

今日はこのメンツで、この豪華な屋敷に泊まることになる。
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