ビターチョコ
午後の部の公演が始まる前。
お客さんの集団の中に、碧を見つけた。
深月と秋山くんや、巽くんが可愛がっているところを見ると、正瞭賢を受験予定の優梨ちゃんだろうか。
私は早着替えのときだけ手伝うから、ほとんど観客みたいなものだ。
紺地の花柄のスカートに、ボディーラインを強調するラベンダーの薄手ニット。
トレンチコートを羽織れば、アルバイト店員というより、丸の内にいそうなOLの完成だ。
こんな麗しい子が、暴力を振るわれて顔や腕に傷を作るなど、彼氏役としてはいたたまれないだろう。
この劇の見どころとして、助けた後の告白台詞と、それに対する返答がある。
もちろん、主役2人は台本は暗記しているが、慣れてきたからかちょっとずつアドリブを挟むようになってきている。
「麗菜、お前さ、暴力振るわれてたわけ?
何で言ってくれなかったの?」
「何で、って……!
まだ彼氏でもない人に、ましてや昔の同級生に……
心配なんて、掛けられないよ……」
「いいよ。
迷惑なんて思ってないし。
好きな奴に掛けられる迷惑なら本望、ってやつだ」
普通にアドリブを入れてくる麗眞くんもさすがだけれど。
それにうまくアドリブで返す椎菜もさすがだ。
彼女が母親がモデル兼女優をやっているだけのことはある。
「え、誠也。
あの、今の言葉、告白、って捉えていいの?」
「んー?
そのつもりで言ったんだけど?
麗菜が転校する前に、本当は言いたかったんだけど。
改めて。
麗菜、好きです。
ちゃんと、正式に俺の彼女になって?」
そこで本来なら告白の返事をするのだが、返事をせずに、椎菜が麗眞くんの頬に口づけた。
「肯定の返事のつもりなら、頬じゃないところがよかったんだけどな?」
その言葉を受けて、普段からそうしているから手慣れているのだろうか。
そっと背伸びをして、麗眞くんと椎菜がそっと唇を重ねた。
「ねぇ、誠也。
ホテルに泊まるの、お金勿体ないよ。
出張の最後の日くらい、私の家来る?
その方が私も安心だし」
「麗菜からそんな台詞聞けるなんて思ってなかった。
寝かせないかもよ?」
「明日休み貰ってるもん、私は大丈夫」
『自然に恋人つなぎをしながら、2人は仕事終わりの人が行き交う夜の街の人混みへ紛れていくのでした。
なお、翌日に誠也は出張から東京へ戻るのです。
ちょうどその頃、麗菜が働くカフェも東京へ移転することが決定。
彼女も彼の後を追うように東京に行くこととなりました。
2人は同じ家で当たり前のように一緒に日常を過ごすことに決めたのでした。
めでたしめでたし』
ナレーションも、アドリブに臨機応変に対応するのは美冬にしか出来ない芸当だ。
「お兄ちゃん、なかなかの役だったね。
ちょっと不憫」
長い黒髪を後頭部でハーフアップにした、本当にナチュラルな化粧の女のコ。
スマホにはストラップがいくつもついていた。
妹にズバッと言われて、落ち込む巽くん。
彼の肩を、元気づけるようにバシっと叩いたのは琥珀だ。
「あ、琥珀さん!
こんな兄ですが、よろしくお願いしますね!
お兄ちゃんと琥珀さんが結婚したら、私は琥珀さんの義理の妹になるんですもんね」
「コラ、優梨!
何てこと言うんだ、まだ未成年だぞ!
ってか、まだ恋人関係じゃないし!
まぁ、琥珀もウチの両親には気に入られるだろうが」
そう言いつつ顔を耳まで真っ赤にしながら、妹の肩を軽く叩いたのは兄の巽くんだ。
琥珀も、巽くんと同じように耳まで真っ赤な顔を伏せている。
2人とも、恋してて可愛いな。
私と拓実の仲を見守っているとき、椎菜や深月や華恋も、こんな気持ちだったのかな。
お客さんの集団の中に、碧を見つけた。
深月と秋山くんや、巽くんが可愛がっているところを見ると、正瞭賢を受験予定の優梨ちゃんだろうか。
私は早着替えのときだけ手伝うから、ほとんど観客みたいなものだ。
紺地の花柄のスカートに、ボディーラインを強調するラベンダーの薄手ニット。
トレンチコートを羽織れば、アルバイト店員というより、丸の内にいそうなOLの完成だ。
こんな麗しい子が、暴力を振るわれて顔や腕に傷を作るなど、彼氏役としてはいたたまれないだろう。
この劇の見どころとして、助けた後の告白台詞と、それに対する返答がある。
もちろん、主役2人は台本は暗記しているが、慣れてきたからかちょっとずつアドリブを挟むようになってきている。
「麗菜、お前さ、暴力振るわれてたわけ?
何で言ってくれなかったの?」
「何で、って……!
まだ彼氏でもない人に、ましてや昔の同級生に……
心配なんて、掛けられないよ……」
「いいよ。
迷惑なんて思ってないし。
好きな奴に掛けられる迷惑なら本望、ってやつだ」
普通にアドリブを入れてくる麗眞くんもさすがだけれど。
それにうまくアドリブで返す椎菜もさすがだ。
彼女が母親がモデル兼女優をやっているだけのことはある。
「え、誠也。
あの、今の言葉、告白、って捉えていいの?」
「んー?
そのつもりで言ったんだけど?
麗菜が転校する前に、本当は言いたかったんだけど。
改めて。
麗菜、好きです。
ちゃんと、正式に俺の彼女になって?」
そこで本来なら告白の返事をするのだが、返事をせずに、椎菜が麗眞くんの頬に口づけた。
「肯定の返事のつもりなら、頬じゃないところがよかったんだけどな?」
その言葉を受けて、普段からそうしているから手慣れているのだろうか。
そっと背伸びをして、麗眞くんと椎菜がそっと唇を重ねた。
「ねぇ、誠也。
ホテルに泊まるの、お金勿体ないよ。
出張の最後の日くらい、私の家来る?
その方が私も安心だし」
「麗菜からそんな台詞聞けるなんて思ってなかった。
寝かせないかもよ?」
「明日休み貰ってるもん、私は大丈夫」
『自然に恋人つなぎをしながら、2人は仕事終わりの人が行き交う夜の街の人混みへ紛れていくのでした。
なお、翌日に誠也は出張から東京へ戻るのです。
ちょうどその頃、麗菜が働くカフェも東京へ移転することが決定。
彼女も彼の後を追うように東京に行くこととなりました。
2人は同じ家で当たり前のように一緒に日常を過ごすことに決めたのでした。
めでたしめでたし』
ナレーションも、アドリブに臨機応変に対応するのは美冬にしか出来ない芸当だ。
「お兄ちゃん、なかなかの役だったね。
ちょっと不憫」
長い黒髪を後頭部でハーフアップにした、本当にナチュラルな化粧の女のコ。
スマホにはストラップがいくつもついていた。
妹にズバッと言われて、落ち込む巽くん。
彼の肩を、元気づけるようにバシっと叩いたのは琥珀だ。
「あ、琥珀さん!
こんな兄ですが、よろしくお願いしますね!
お兄ちゃんと琥珀さんが結婚したら、私は琥珀さんの義理の妹になるんですもんね」
「コラ、優梨!
何てこと言うんだ、まだ未成年だぞ!
ってか、まだ恋人関係じゃないし!
まぁ、琥珀もウチの両親には気に入られるだろうが」
そう言いつつ顔を耳まで真っ赤にしながら、妹の肩を軽く叩いたのは兄の巽くんだ。
琥珀も、巽くんと同じように耳まで真っ赤な顔を伏せている。
2人とも、恋してて可愛いな。
私と拓実の仲を見守っているとき、椎菜や深月や華恋も、こんな気持ちだったのかな。