ビターチョコ
学園最後の行事も次々と終わって行った。

美冬は文化祭の放送部公開収録にゲストとして呼ばれていた。

そして、あっという間にクリスマスもお正月もバレンタインも過ぎて、3月6日。

盛大に、卒業式が行われた。

もう、この制服を着ることも、最寄り駅のアナウンスを聞くのも、これで最後なんだ。

在校生によって制服に花がつけられ、淡いイエローのワンピース姿の新澤先生の後に、体育館に入場する。

「卒業生代表、宝月 麗眞!」

麗眞くんが、全員分の卒業証書を受け取った。

卒業式が終わると、琥珀がこの学園で最後のピアノを奏でた。

また、1日限定で私達の軽音楽部のバンドを復活させ、曲を披露した。

在校生と卒業生がざわついている。

軽音楽部所属の時と同様に、歌唱時の映像にはこだわっている。

ときには、合う映像を撮りに遠出することもあった。

被写体が、自分たちになることもままあった。

その映像に、何か不具合があったのだろうか。

3曲歌い終えたところで、しばらく聞くことのなかった懐かしい人が、ステージの袖から出てきた。

皆で目を見合わせて、途中で学園を去ることになった柳下 碧(やぎした みどり)との再会を喜んだ。

「正瞭賢高等学園の皆様、こんにちは。

柳下 碧です。

諸事情により、途中で学園を去りました。

今日は皆様卒業生の晴れの日ということで、特別にお邪魔させていただきました。

一生懸命練習してきた曲、聞いてください」

バラードを懸命に歌い、綺麗な高音を体育館一杯に響かせていた。

「皆様、特別にお越しいただいた、柳下 碧さんに大きな拍手をお送り下さい!」

美冬の後輩のアナウンスをかき消す万来の拍手が、碧に送られた。

そして、サプライズはもう一つあった。

会場が暗くなり、スクリーンが降りると、
突然、映像が映し出された。

高校1年生からの私や他の生徒の映像。

しっかり入れられたナレーション。

まさに卒業生の私達の高校3年間を振り返るメモリアルムービーだった。

制作のスタッフ欄に放送部の後輩はもちろん、全教師の名前が入っていた。

離任式で学園を去った教師の名前まで入れられていたのには驚いた。

あらゆる手を尽くして、映像を集めたことが分かった。

美冬が少し涙目になっていた。

後輩が、自分たち元部長に頼ることなく、自ら動いて、映像を作った事実に感動したようだ。

卒アルの皆からの寄せ書きが、ほとんど同じ文面だった。

『拓実くんとの惚気話、聞けなくなるの寂しいなー!

無事医師になれたら、その時は皆でお祝いしたいなー!

拓実くんと末永くお幸せに!

挙式には絶対呼んでねー!』

何だこれは。

さらに、私や椎菜、深月や美冬のいつメンが、『レジェンド』と書かれた文面の上に写真で写っている。

『レジェンド』って何だ……

卒業式後は、祝賀会だ。

相沢さんに迎えに来てもらって、制服のままどんちゃん騒ぎをした。

美冬が、後輩から、卒業式で流れたメモリアルムービーを貰った。

特別に、スタッフロールの後に映像が追加されているのだという。

『岩崎さん。

卒業おめでとう。

レジェンド……

学園の発展に大きな影響を与えた生徒をそう呼んでいるんだ。

っていうのは理事長の受け売りなんだけどね。

自分の信じたことを曲げない信念が、浅川さんや美川さん、関口さん達にいい影響を及ぼしたのね。

この1年接してきて、強く思ったわ。

これからも、自分の決めた進路で自分らしく過ごしてね。

もう貴方たちの担任教師ではないけれど、応援しているわ。

これからの岩崎さんの輝かしい未来に幸あれ』

担任だった新澤から、ビデオメッセージが入っていた。

ウエディングプランナーを目指せる専門学校に進学を決めた華恋は、寮での模範生として、しっかりと規律を守っていたという。

ときには新たなルールを理事長に直談判していたりもしていたようだ。

それは新澤先生にも高く評価されていた。












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