ビターチョコ
きちんと、鞄に家の鍵も、音楽プレーヤーも財布も入ったままで安心した。
鍵を開けて中に入ると、父がリビングのソファーで爆睡していた。
起こさないようにドアを開けて靴を脱いで自分の部屋に入る。
椎菜ちゃんとは駅で1時間後に待ち合わせだ。
メガネを1度外して、白と黒のバイカラーブラウスに水色のニット、ギンガムチェックのズボンを着て、鏡の前に立つ。
「これで、いいかな……」
ブラウスと同じ、黒と白のバイカラーのトートバッグに、財布やらウォークマン、青い携帯電話を入れる。
鏡に向かって、夏より強いと言われる春の紫外線に焼けて少し黒くなった肌に明るめの下地とファンデーションを塗りたくる。
アイシャドウはニットに合わせて青にして、いつものように黒いアイラインとマスカラで仕上げる。
ベージュ系のグロスルージュを塗ってメイクを完了させる。
メイクポーチは先ほどのカバンに放り込んだ。
黒いフットカバーを履き、お気に入りのBVLGARIプールオムの香水を吹き付けて、リビングに降りた。
”出掛けてきます”と書いたメモだけをテーブルに残す。
父が心配しないように。
黒ぶち眼鏡をかけて、家を出た。
先が尖った黒いエナメルローファーを履いて小走りで駅まで向かう。
流石にずっと小走りは疲れる。
駅の前の横断歩道を無事、信号が点滅する前に渡ってからは、歩いて行くことにした。
いつもなら構わず駆け上がるエスカレーターも今日は止まったまま乗った。
改札前のロータリーに着くと、サラサラの茶色い髪を丁寧に内巻きにした、紺に白地のドット柄ワンピースに白いカーディガン。
ストッキング、クリア素材のショルダーバッグに茶色のゴールドのサンダルを履いた女の子が立っていた。
その子は、スマホから目線を外すと、こちらに向かって大きく手を振った。
「理名ちゃん!」
「椎菜ちゃん!?
どこぞの大学生かと思った……」
「そんなことないって……」
「行こうか」
2人別々に改札をくぐって、駅のホームに向かう。
着いた先は、3駅先にある大きな駅のショッピングモール。
こんなとこ、あったの?
椎菜ちゃんは、何やら携帯電話のメール画面を覗きこみながら、私が好むカジュアル、セクシー系のお店を案内してくれた。
黒とチェック、ガラスを意識したお店のマネキンが履いていたバックリボンハイウエストカットデニムパンツに目が止まった。
「ここだよ、ここ!
理名ちゃんなら気に入ると思って、ずっと案内したかったの!」
「気に入った!
ありがとう!
こういう感じの、カジュアルだけどほんの少しの色気がある服が大好きなの」
「私のお母さん、モデルをしてるの。
理名ちゃんの服のテイストとか好み伝えたら、ここオススメしてくれたのよ」
椎菜ちゃんのお母さん、モデルなの?
どうりで、奨学金を使わずとも学費を払えるわけだ……
2人で話していると、つけまつ毛と黒アイラインとマスカラで目元を黒く強調したお店員さんが話しかけてきた。
「そのズボン、後ろがリボンになってて可愛いですよねー。
私も社割で買っちゃいました!」
店員さんの言葉に苦笑いしていると、椎菜ちゃんが接客していた店員さんに話しかけた。
「あの、私達、明後日から2泊3日の宿泊オリエンテーションっていう学校行事に行くんです。
このショートヘアの女の子に似合う、そのズボンを使ったコーディネートしてあげてくれませんか?」
椎菜ちゃん?
何言ってるの?
「かしこまりました」
お姉さんはそう言って、私を引っ張って店の奥へと消えて行った。
店内を見回っていくつかトップスやブラウスを取って、試着室で服を着替えていった。
広い襟空きとトップスを肩掛けしたようなデザインが特徴のカーキの服。
オフショルダーかつバックリボンが特徴のトップス、ベルト付きドルマンシャツ。
腰巻き風スウェットマキシワンピ。
ウエストリボンストライプ柄シャツワンピ。たくさん着せてもらった。
「どれも似合ってたよ?
理名ちゃん。」
そう言われると、すべての服を買ってしまいたくなる。
普段、物欲なんてない。
だから、貰ったお年玉はほとんど使わずにとってある。
だけど、それを使っても、全部は買えないだろう。
思案していると、椎菜ちゃんは一枚のクレジットカードを差し出してきた。
「お母さんから預かったの。
これのポイント、使っても構わないって!!」
「え?
でも……」
「いいの。
私のお母さん、今の理名ちゃんみたいなモードな服をたくさん、撮影で着させられるみたいなんだけどね。
そういう服が好きな理名ちゃんのこと、気に入ったって言うから」
そこまで言われると、ありがとう、というしかない。
椎菜ちゃんのお母さんのご好意を無下にしたくない。
「ありがとう。
使わせてもらう」
総額16000円くらいだったのに、半額程になった。
「椎菜ちゃん、ありがとう」
「いいえ。
どういたしまして」
2人で顔を見合わせて笑う。
「こんなにたくさん服を買ったの、人生で初めてかも」
「ふふ。
良かった。
必死にリサーチした甲斐あったわ」
店を出たところで、そんな声がした。
椎菜ちゃんではない。
誰?
鍵を開けて中に入ると、父がリビングのソファーで爆睡していた。
起こさないようにドアを開けて靴を脱いで自分の部屋に入る。
椎菜ちゃんとは駅で1時間後に待ち合わせだ。
メガネを1度外して、白と黒のバイカラーブラウスに水色のニット、ギンガムチェックのズボンを着て、鏡の前に立つ。
「これで、いいかな……」
ブラウスと同じ、黒と白のバイカラーのトートバッグに、財布やらウォークマン、青い携帯電話を入れる。
鏡に向かって、夏より強いと言われる春の紫外線に焼けて少し黒くなった肌に明るめの下地とファンデーションを塗りたくる。
アイシャドウはニットに合わせて青にして、いつものように黒いアイラインとマスカラで仕上げる。
ベージュ系のグロスルージュを塗ってメイクを完了させる。
メイクポーチは先ほどのカバンに放り込んだ。
黒いフットカバーを履き、お気に入りのBVLGARIプールオムの香水を吹き付けて、リビングに降りた。
”出掛けてきます”と書いたメモだけをテーブルに残す。
父が心配しないように。
黒ぶち眼鏡をかけて、家を出た。
先が尖った黒いエナメルローファーを履いて小走りで駅まで向かう。
流石にずっと小走りは疲れる。
駅の前の横断歩道を無事、信号が点滅する前に渡ってからは、歩いて行くことにした。
いつもなら構わず駆け上がるエスカレーターも今日は止まったまま乗った。
改札前のロータリーに着くと、サラサラの茶色い髪を丁寧に内巻きにした、紺に白地のドット柄ワンピースに白いカーディガン。
ストッキング、クリア素材のショルダーバッグに茶色のゴールドのサンダルを履いた女の子が立っていた。
その子は、スマホから目線を外すと、こちらに向かって大きく手を振った。
「理名ちゃん!」
「椎菜ちゃん!?
どこぞの大学生かと思った……」
「そんなことないって……」
「行こうか」
2人別々に改札をくぐって、駅のホームに向かう。
着いた先は、3駅先にある大きな駅のショッピングモール。
こんなとこ、あったの?
椎菜ちゃんは、何やら携帯電話のメール画面を覗きこみながら、私が好むカジュアル、セクシー系のお店を案内してくれた。
黒とチェック、ガラスを意識したお店のマネキンが履いていたバックリボンハイウエストカットデニムパンツに目が止まった。
「ここだよ、ここ!
理名ちゃんなら気に入ると思って、ずっと案内したかったの!」
「気に入った!
ありがとう!
こういう感じの、カジュアルだけどほんの少しの色気がある服が大好きなの」
「私のお母さん、モデルをしてるの。
理名ちゃんの服のテイストとか好み伝えたら、ここオススメしてくれたのよ」
椎菜ちゃんのお母さん、モデルなの?
どうりで、奨学金を使わずとも学費を払えるわけだ……
2人で話していると、つけまつ毛と黒アイラインとマスカラで目元を黒く強調したお店員さんが話しかけてきた。
「そのズボン、後ろがリボンになってて可愛いですよねー。
私も社割で買っちゃいました!」
店員さんの言葉に苦笑いしていると、椎菜ちゃんが接客していた店員さんに話しかけた。
「あの、私達、明後日から2泊3日の宿泊オリエンテーションっていう学校行事に行くんです。
このショートヘアの女の子に似合う、そのズボンを使ったコーディネートしてあげてくれませんか?」
椎菜ちゃん?
何言ってるの?
「かしこまりました」
お姉さんはそう言って、私を引っ張って店の奥へと消えて行った。
店内を見回っていくつかトップスやブラウスを取って、試着室で服を着替えていった。
広い襟空きとトップスを肩掛けしたようなデザインが特徴のカーキの服。
オフショルダーかつバックリボンが特徴のトップス、ベルト付きドルマンシャツ。
腰巻き風スウェットマキシワンピ。
ウエストリボンストライプ柄シャツワンピ。たくさん着せてもらった。
「どれも似合ってたよ?
理名ちゃん。」
そう言われると、すべての服を買ってしまいたくなる。
普段、物欲なんてない。
だから、貰ったお年玉はほとんど使わずにとってある。
だけど、それを使っても、全部は買えないだろう。
思案していると、椎菜ちゃんは一枚のクレジットカードを差し出してきた。
「お母さんから預かったの。
これのポイント、使っても構わないって!!」
「え?
でも……」
「いいの。
私のお母さん、今の理名ちゃんみたいなモードな服をたくさん、撮影で着させられるみたいなんだけどね。
そういう服が好きな理名ちゃんのこと、気に入ったって言うから」
そこまで言われると、ありがとう、というしかない。
椎菜ちゃんのお母さんのご好意を無下にしたくない。
「ありがとう。
使わせてもらう」
総額16000円くらいだったのに、半額程になった。
「椎菜ちゃん、ありがとう」
「いいえ。
どういたしまして」
2人で顔を見合わせて笑う。
「こんなにたくさん服を買ったの、人生で初めてかも」
「ふふ。
良かった。
必死にリサーチした甲斐あったわ」
店を出たところで、そんな声がした。
椎菜ちゃんではない。
誰?