ビターチョコ
「最後までいったらそれもそれでまずい、とは思うの。
まだ高校生だし。
妊娠するの怖いし。
でも、もうちょっと自信が欲しいなって。
ちゃんと、麗眞に愛されてる自覚が欲しい」
傍から見ていても、十分愛されているはず、なんて言うのは止めた。
第三者から見たらそうでも、本人にとっては違う、ということも十分にあり得る話だ。
根本は、『医者や看護師側から見たら最善の治療でも、患者である側からしたら、それは違うことがある』
のと同じということだ。
誰かの受け売りで言っているこの言葉。
誰かから聞いた気がする。
母親ではない、誰かから。
おっと、思考回路を切り替えなくては。
危うく、過去の記憶という名の、思考の沼にはまるところだった。
大変だなぁ、椎菜ちゃんも。
それにしても、お母さんには聞こえない音量で話す辺り、よっぽど恥ずかしいようだ。
慰めと勇気付けの意味合いで、彼女の華奢なん肩をポンと叩く。
彼女の顔に笑顔が戻った。
私には、励ますことくらいしか出来ない。
それで元気になってくれるなら、私は満足だ。
やがて、椎菜ちゃんのお母さんお勧めのお店を3軒回った。
1つ目のお店で購入したのは、シャツデザインのケミカルロンパース、
フロントフリルがない胸のカモフラージュになるチェックキャミソールオールインワン。
それにネイビーのガウチョパンツ、透け感のある、赤っぽい色のフロントがリボンになったトップスを2軒めのお店で買った。
最後の店では普段学校で履いているローファーのメーカーであるハイタとコラボした黒いローファーと、リュックサック、長いショルダーバッグ、短いショルダーバッグと3通りに使える鞄をお買い上げした。
今日だけで全身コーデが出来る。
そして、椎菜ちゃん母娘と、腰を落ち着けようと3人でカフェに入った。
そこで椎菜ちゃんの母親に、亡き母のことをたくさん聞かれた。
「そうなの……
さぞかし、辛かったでしょうね。
無神経に聞いてしまって少し後悔しているところよ。
それにしては、話すときに泣きもしなかったから、変に我慢していないか、心配ではあるけれど」
そこで1度言葉を切って、再び話し始める。
「看護師だったのね。
立派な母親だったでしょ。
誇らしかったんじゃない?
知らないところで、うちの椎菜も、貴女のお母さんがいる病院に行ったりしてたかもしれないわね」
「そんなそんな……。
これ、病室で母から聞いたんですけど、年頃の子にしてはあまり風邪ひかなかったみたいなんです、私。
今思えば、看護師の娘っていう変なプライドがあって、風邪ひいて病院行ってお母さんの病院の人にお世話になりたくないって思ったから、なんでしょうけど」
「うちの椎菜は理名ちゃんと真逆でしょっちゅう風邪ひいてたわ。
昔から、呼吸器と気管が丈夫じゃないのよ」
「ちょ、お母さん!」
「本当のことじゃない。
そういうことは、ちゃんとお友達に伝えたほうがいいわよ?」
「はぁい」
珍しく、拗ねる椎菜ちゃんを見て、微笑ましくなった。
この2人は、いい親子だ。
きちんと、信頼関係が構築されている。
言葉の端々から、「親が娘を心配している」気持ちが伝わってくる。
「大丈夫。
宿泊オリエンテーションの保健係、私だし」
「そういえばそうだったね!
何かあったら、よろしく。
岩崎看護師さん。
じゃなくて、えっと、岩崎医師、とかのほうがいい?」
うーん、と目線を上に向けて考え込む椎菜ちゃんを見て、決意した。
まだ、資格はないけれど、いつかはそう呼ばれたい。
いや、そう呼ばれる存在になるんだ。
カフェで椎菜ちゃんはミルクティー、椎菜ちゃん母はカフェオレ、私はブラックコーヒーを堪能した。
カフェのお支払いまでカードで済ませている椎菜ちゃんの母に、口をあんぐりさせた。
ポンとカードで支払いしている感覚が、私には理解が出来ないし、お金持ちアピールでもされている気分になる。
雑誌のモデルから、CMのモデル、最近は、女優にまでチャレンジしているという椎菜ちゃんの母親。
そんじょそこらのサラリーマンやOLより、稼ぎはいいのだろう。
少しは、テレビ、観てみようかな。
「ありがとうございました。
ごちそうさまでした」
「いいえ。
気にしなくていいのよ?」
椎菜ちゃんのお買い物は、ジャガードショートパンツとキャミソール、その上にシフォンフリルトップスがドッキングされたロンパース。
フロントのフリルが映えるワイン色のシアーブラウス、細かなプリーツがランダムに入った黒いガウチョパンツを買った。
やっぱり、椎菜ちゃんのセレクトは大人の色気と可愛らしさを両立するものが多い。
しかも、年相応というよりは、大学生という感じで、子供っぽくはない。
恋をしている人は、みんなこうなのかな。
いつか、私も、椎菜ちゃんみたいになれるのかな。
私にとって人生初の一目惚れがこの後に待っているなんて。
……この時は分かるはずがなかった。
そんなことを考えているうちに、椎菜ちゃんのお買い物が終わったようだ。
この後は、椎菜ちゃん親子で夕食の買出しをするようだ。
邪魔しては悪いと思った私はここで帰ることにした。
「ありがとうございました!」
「いいのよ、今度は私の家に遊びにいらっしゃいね!
いつでも歓迎するわ」
「またね、理名ちゃん!」
椎菜ちゃんの母親に何度も頭を下げながらも、椎菜ちゃんに手を振る。
エスカレーターを3回降りてショッピングモールを出て、電車を乗り継ぎ、家に帰った。
まだ高校生だし。
妊娠するの怖いし。
でも、もうちょっと自信が欲しいなって。
ちゃんと、麗眞に愛されてる自覚が欲しい」
傍から見ていても、十分愛されているはず、なんて言うのは止めた。
第三者から見たらそうでも、本人にとっては違う、ということも十分にあり得る話だ。
根本は、『医者や看護師側から見たら最善の治療でも、患者である側からしたら、それは違うことがある』
のと同じということだ。
誰かの受け売りで言っているこの言葉。
誰かから聞いた気がする。
母親ではない、誰かから。
おっと、思考回路を切り替えなくては。
危うく、過去の記憶という名の、思考の沼にはまるところだった。
大変だなぁ、椎菜ちゃんも。
それにしても、お母さんには聞こえない音量で話す辺り、よっぽど恥ずかしいようだ。
慰めと勇気付けの意味合いで、彼女の華奢なん肩をポンと叩く。
彼女の顔に笑顔が戻った。
私には、励ますことくらいしか出来ない。
それで元気になってくれるなら、私は満足だ。
やがて、椎菜ちゃんのお母さんお勧めのお店を3軒回った。
1つ目のお店で購入したのは、シャツデザインのケミカルロンパース、
フロントフリルがない胸のカモフラージュになるチェックキャミソールオールインワン。
それにネイビーのガウチョパンツ、透け感のある、赤っぽい色のフロントがリボンになったトップスを2軒めのお店で買った。
最後の店では普段学校で履いているローファーのメーカーであるハイタとコラボした黒いローファーと、リュックサック、長いショルダーバッグ、短いショルダーバッグと3通りに使える鞄をお買い上げした。
今日だけで全身コーデが出来る。
そして、椎菜ちゃん母娘と、腰を落ち着けようと3人でカフェに入った。
そこで椎菜ちゃんの母親に、亡き母のことをたくさん聞かれた。
「そうなの……
さぞかし、辛かったでしょうね。
無神経に聞いてしまって少し後悔しているところよ。
それにしては、話すときに泣きもしなかったから、変に我慢していないか、心配ではあるけれど」
そこで1度言葉を切って、再び話し始める。
「看護師だったのね。
立派な母親だったでしょ。
誇らしかったんじゃない?
知らないところで、うちの椎菜も、貴女のお母さんがいる病院に行ったりしてたかもしれないわね」
「そんなそんな……。
これ、病室で母から聞いたんですけど、年頃の子にしてはあまり風邪ひかなかったみたいなんです、私。
今思えば、看護師の娘っていう変なプライドがあって、風邪ひいて病院行ってお母さんの病院の人にお世話になりたくないって思ったから、なんでしょうけど」
「うちの椎菜は理名ちゃんと真逆でしょっちゅう風邪ひいてたわ。
昔から、呼吸器と気管が丈夫じゃないのよ」
「ちょ、お母さん!」
「本当のことじゃない。
そういうことは、ちゃんとお友達に伝えたほうがいいわよ?」
「はぁい」
珍しく、拗ねる椎菜ちゃんを見て、微笑ましくなった。
この2人は、いい親子だ。
きちんと、信頼関係が構築されている。
言葉の端々から、「親が娘を心配している」気持ちが伝わってくる。
「大丈夫。
宿泊オリエンテーションの保健係、私だし」
「そういえばそうだったね!
何かあったら、よろしく。
岩崎看護師さん。
じゃなくて、えっと、岩崎医師、とかのほうがいい?」
うーん、と目線を上に向けて考え込む椎菜ちゃんを見て、決意した。
まだ、資格はないけれど、いつかはそう呼ばれたい。
いや、そう呼ばれる存在になるんだ。
カフェで椎菜ちゃんはミルクティー、椎菜ちゃん母はカフェオレ、私はブラックコーヒーを堪能した。
カフェのお支払いまでカードで済ませている椎菜ちゃんの母に、口をあんぐりさせた。
ポンとカードで支払いしている感覚が、私には理解が出来ないし、お金持ちアピールでもされている気分になる。
雑誌のモデルから、CMのモデル、最近は、女優にまでチャレンジしているという椎菜ちゃんの母親。
そんじょそこらのサラリーマンやOLより、稼ぎはいいのだろう。
少しは、テレビ、観てみようかな。
「ありがとうございました。
ごちそうさまでした」
「いいえ。
気にしなくていいのよ?」
椎菜ちゃんのお買い物は、ジャガードショートパンツとキャミソール、その上にシフォンフリルトップスがドッキングされたロンパース。
フロントのフリルが映えるワイン色のシアーブラウス、細かなプリーツがランダムに入った黒いガウチョパンツを買った。
やっぱり、椎菜ちゃんのセレクトは大人の色気と可愛らしさを両立するものが多い。
しかも、年相応というよりは、大学生という感じで、子供っぽくはない。
恋をしている人は、みんなこうなのかな。
いつか、私も、椎菜ちゃんみたいになれるのかな。
私にとって人生初の一目惚れがこの後に待っているなんて。
……この時は分かるはずがなかった。
そんなことを考えているうちに、椎菜ちゃんのお買い物が終わったようだ。
この後は、椎菜ちゃん親子で夕食の買出しをするようだ。
邪魔しては悪いと思った私はここで帰ることにした。
「ありがとうございました!」
「いいのよ、今度は私の家に遊びにいらっしゃいね!
いつでも歓迎するわ」
「またね、理名ちゃん!」
椎菜ちゃんの母親に何度も頭を下げながらも、椎菜ちゃんに手を振る。
エスカレーターを3回降りてショッピングモールを出て、電車を乗り継ぎ、家に帰った。