ビターチョコ
エレベーターを降りると、ホールのところに美冬ちゃんたちがいた。
「あれ?
待っててくれたの?」
「華恋ちゃんがね、レストランの中入っちゃうと探しづらくなっちゃうかもしれない、って言うから。
ここで待つことにしたんだ」
さすが、そういうことまで配慮が出来る子はこの高校生という年代では珍しいとさえ思えた。
美冬ちゃんたちと合流したところで、皆で仲良く朝食を食べた。
朝食を食べていると、後ろから誰かに肩を叩かれた。
麗眞くんだ。
「昨日お疲れ様」
「そっちもでしょ?」
悪い方向に考えすぎて、損した。
そう思ってしまうくらい、自然に彼と会話が出来た。
昨日の私の言動は、特に気にしていないようだった。
私が気を揉んでいることなんて知らぬ存ぜぬというふうに、彼は自分たち男子グループのテーブルに着いて、各々いろんな話をしている。
男子諸君は、生粋のモテ男、麗眞くんにいろいろ聞きたいことでもあったらしい。
それが、彼が抜けてしまったものだから聞けずじまいだったのだろう。
男子生徒たちからの質問攻めにあっていた。
そちらの男子側のテーブルをチラリと見遣った美冬ちゃん。
彼女が呟いた一言に、私は椅子から飛び上がるほどの勢いだった。
「このグループの中でモテなら華恋ちゃんだって私だって負けてないのになぁ。
中学生の頃はね、私は生徒会長、華恋はバスケ部マネージャーやってたの。
華恋なんて、タメ年上年下関係なく、バスケ部部員ほとんどと、付き合ったもんね?」
「え、そうなの?」
中学生なのに、風紀乱れすぎでしょ……
「なーんて、冗談だよ。
そこまでカリスマじゃないし、そんな奔放な子じゃないもん。
でも華恋は、一番モテたバスケ部の先輩堕としたんだから」
高校生とかなら分かるけど、中学生でそれってすごい。
勝手に話を盛るなと小言を言う華恋ちゃん。
彼女にお構いなしに、また美冬ちゃんが話し出す。
「羨ましいよねー、その割に私は真面目ちゃんに見られて全然モテなかったし。
私がそういう、モテテクっていうの?
教えてほしいくらいだわ」
「なによ。
美冬は好きな人、いないんじゃなかった?」
この会話が、ハプニングの発端になるなんてこの時は思いもしなかった。
「まぁ、そうだけどさ……」
「そういうの、先に教えてあげるのは理名ちゃんにでしょ?」
急に私の名前を出されて、脳内がパニックになる。
「まずは、その惚れた男の人がどういう人なのかを知らないとねぇ……
堕とす作戦立てるのはそれからね」
堕とすって……
恋愛をゲームと同じか、それと同等以上に簡単だと考えている人じゃないと、なかなかこんなセリフは言えない。
この瞬間、私の中で華恋の異名が決まった。
「恋愛のカリスマ」だ。
とかなんとか思っていると、麗眞くんの執事の相沢さんがいないことに気付いた。
いつも一緒にいるのに、珍しい。
レストランの入口に目線をやると、麗眞くんがスマホを持ってレストランを出たのが見えた。
ものの数分で戻ってきた。
電話にしては短すぎる。
相手は誰だったんだろう。
私が気にすることじゃないか。
そう思ってまた朝食にかじりつく。
私
たちが食事を終えて、部屋に戻るために食堂を出ようとした。
そこに、相沢さんが入ってきた。
「おはようございます。
理名さ様が、昨日はお疲れ様でございました」
私にそれだけを言うと、真っ直ぐ麗眞くんのところに向かった。
彼と何かを話しているみたいだ。
「椎菜ちゃんは大丈夫なのかな」
「もしかして、もう戻ってきてるとか?」
「まさかねー」
皆でそんな会話をしながら、エレベーターで自分たちの部屋に向かった。
でも、あり得ない話ではない。
急性気管支炎は、きちんと治療を施せば、わりと早期に快方に向かうからだ。
すると、部屋の鍵が開いていた。
「あれ?
このホテルの部屋ってオートロックになってるだよね?」
深月ちゃんに確認すると、彼女も頷いた。
他に、開けられる人って……。
ふと、脳裏にある人の顔が浮かんだ。
……まさかね。
ドアを開けてみると、ベージュ色のシアーブラウスに黒いガウチョパンツを着ている女の子がいた。
茶色の長髪をハーフアップにして、前髪は編み込んである。
紛れもなく、麗眞くんの暫定彼女、椎菜ちゃんだ。
「椎菜ちゃん!?
もう、大丈夫なの?」
「大丈夫。
特性上、咳はまだ少し残るかもしれないからって薬も貰ったし。
熱はもうすっかり下がったしね。
改めて、理名ちゃん、ごめんね?
助けてくれてありがとう。
カッコよくて惚れそうだった」
「いいの。
おかげで、ちょこっとだけ母親のこと、尊敬できたし」
改めて、母の死と、母の職業に向き合うことが出来た。
どれだけ苦労をすることになったとしても、私は母を超える。
そんな決意を固めることが出来たのも、椎菜ちゃんのおかげだ。
あ、そうだ。
そう呟きながら、椎菜ちゃんが傍らにあった紙2枚を渡してくれた。
そこには、私が昨日の朝電車で会ったと思われる高校生の特徴や制服、在学する高校の候補まで書かれてあった。
「こんなの、いつの間に?
椎菜ちゃん、どうして?」
「勝手に話してごめんね?
理名ちゃんだってことは凛さんにも相沢さんにも言ってないから大丈夫。
友達が宿泊オリエンテーションに行く途中、こんなことあったみたいって凛さんに話したの。
その話が今日私を迎えに来てくれた相沢さんに伝わったみたいで。
彼が調べてくれたの。
理名ちゃんに助けてもらったから、お礼のつもりだったんだけど、余計なおせっかいだったかな?」
「そんなことないよ、とっても嬉しい。
ありがとう椎菜ちゃん」
「これ、美冬ちゃんたちにも見せたら参考になるかもね」
その言葉を待っていたように、深月ちゃんと碧ちゃんが彼女たちを呼んできてくれた。
「あれ?
待っててくれたの?」
「華恋ちゃんがね、レストランの中入っちゃうと探しづらくなっちゃうかもしれない、って言うから。
ここで待つことにしたんだ」
さすが、そういうことまで配慮が出来る子はこの高校生という年代では珍しいとさえ思えた。
美冬ちゃんたちと合流したところで、皆で仲良く朝食を食べた。
朝食を食べていると、後ろから誰かに肩を叩かれた。
麗眞くんだ。
「昨日お疲れ様」
「そっちもでしょ?」
悪い方向に考えすぎて、損した。
そう思ってしまうくらい、自然に彼と会話が出来た。
昨日の私の言動は、特に気にしていないようだった。
私が気を揉んでいることなんて知らぬ存ぜぬというふうに、彼は自分たち男子グループのテーブルに着いて、各々いろんな話をしている。
男子諸君は、生粋のモテ男、麗眞くんにいろいろ聞きたいことでもあったらしい。
それが、彼が抜けてしまったものだから聞けずじまいだったのだろう。
男子生徒たちからの質問攻めにあっていた。
そちらの男子側のテーブルをチラリと見遣った美冬ちゃん。
彼女が呟いた一言に、私は椅子から飛び上がるほどの勢いだった。
「このグループの中でモテなら華恋ちゃんだって私だって負けてないのになぁ。
中学生の頃はね、私は生徒会長、華恋はバスケ部マネージャーやってたの。
華恋なんて、タメ年上年下関係なく、バスケ部部員ほとんどと、付き合ったもんね?」
「え、そうなの?」
中学生なのに、風紀乱れすぎでしょ……
「なーんて、冗談だよ。
そこまでカリスマじゃないし、そんな奔放な子じゃないもん。
でも華恋は、一番モテたバスケ部の先輩堕としたんだから」
高校生とかなら分かるけど、中学生でそれってすごい。
勝手に話を盛るなと小言を言う華恋ちゃん。
彼女にお構いなしに、また美冬ちゃんが話し出す。
「羨ましいよねー、その割に私は真面目ちゃんに見られて全然モテなかったし。
私がそういう、モテテクっていうの?
教えてほしいくらいだわ」
「なによ。
美冬は好きな人、いないんじゃなかった?」
この会話が、ハプニングの発端になるなんてこの時は思いもしなかった。
「まぁ、そうだけどさ……」
「そういうの、先に教えてあげるのは理名ちゃんにでしょ?」
急に私の名前を出されて、脳内がパニックになる。
「まずは、その惚れた男の人がどういう人なのかを知らないとねぇ……
堕とす作戦立てるのはそれからね」
堕とすって……
恋愛をゲームと同じか、それと同等以上に簡単だと考えている人じゃないと、なかなかこんなセリフは言えない。
この瞬間、私の中で華恋の異名が決まった。
「恋愛のカリスマ」だ。
とかなんとか思っていると、麗眞くんの執事の相沢さんがいないことに気付いた。
いつも一緒にいるのに、珍しい。
レストランの入口に目線をやると、麗眞くんがスマホを持ってレストランを出たのが見えた。
ものの数分で戻ってきた。
電話にしては短すぎる。
相手は誰だったんだろう。
私が気にすることじゃないか。
そう思ってまた朝食にかじりつく。
私
たちが食事を終えて、部屋に戻るために食堂を出ようとした。
そこに、相沢さんが入ってきた。
「おはようございます。
理名さ様が、昨日はお疲れ様でございました」
私にそれだけを言うと、真っ直ぐ麗眞くんのところに向かった。
彼と何かを話しているみたいだ。
「椎菜ちゃんは大丈夫なのかな」
「もしかして、もう戻ってきてるとか?」
「まさかねー」
皆でそんな会話をしながら、エレベーターで自分たちの部屋に向かった。
でも、あり得ない話ではない。
急性気管支炎は、きちんと治療を施せば、わりと早期に快方に向かうからだ。
すると、部屋の鍵が開いていた。
「あれ?
このホテルの部屋ってオートロックになってるだよね?」
深月ちゃんに確認すると、彼女も頷いた。
他に、開けられる人って……。
ふと、脳裏にある人の顔が浮かんだ。
……まさかね。
ドアを開けてみると、ベージュ色のシアーブラウスに黒いガウチョパンツを着ている女の子がいた。
茶色の長髪をハーフアップにして、前髪は編み込んである。
紛れもなく、麗眞くんの暫定彼女、椎菜ちゃんだ。
「椎菜ちゃん!?
もう、大丈夫なの?」
「大丈夫。
特性上、咳はまだ少し残るかもしれないからって薬も貰ったし。
熱はもうすっかり下がったしね。
改めて、理名ちゃん、ごめんね?
助けてくれてありがとう。
カッコよくて惚れそうだった」
「いいの。
おかげで、ちょこっとだけ母親のこと、尊敬できたし」
改めて、母の死と、母の職業に向き合うことが出来た。
どれだけ苦労をすることになったとしても、私は母を超える。
そんな決意を固めることが出来たのも、椎菜ちゃんのおかげだ。
あ、そうだ。
そう呟きながら、椎菜ちゃんが傍らにあった紙2枚を渡してくれた。
そこには、私が昨日の朝電車で会ったと思われる高校生の特徴や制服、在学する高校の候補まで書かれてあった。
「こんなの、いつの間に?
椎菜ちゃん、どうして?」
「勝手に話してごめんね?
理名ちゃんだってことは凛さんにも相沢さんにも言ってないから大丈夫。
友達が宿泊オリエンテーションに行く途中、こんなことあったみたいって凛さんに話したの。
その話が今日私を迎えに来てくれた相沢さんに伝わったみたいで。
彼が調べてくれたの。
理名ちゃんに助けてもらったから、お礼のつもりだったんだけど、余計なおせっかいだったかな?」
「そんなことないよ、とっても嬉しい。
ありがとう椎菜ちゃん」
「これ、美冬ちゃんたちにも見せたら参考になるかもね」
その言葉を待っていたように、深月ちゃんと碧ちゃんが彼女たちを呼んできてくれた。