ビターチョコ
PCの画面とノートとをにらめっこしていたら、あっという間に時間が経ってしまっていた。
にらめっこしている間に、新しい担任の先生は、HRを終えて、職員室で自分の仕事をしているらしい。
授業終わりを告げるチャイムが鳴る。
その音さえも、懐かしく感じた。
お昼になり、麗眞くん、椎菜。
華恋に美冬。
深月だけじゃなく、クラスが違うはずの琥珀ちゃんまでも保健室に来てくれた。
「理名ちゃんだ!
久しぶり!
会いたかった!」
力を加減してくれているのか、背中に回る腕の力はソフトだった。
「拓実くんが好きなんだよね、協力するね!」
なぜ、琥珀ちゃんがそのことを知っているのだろう。
それについて、深くは聞かなかった。
麗眞くんが、保健室の机の様子を見やって、微笑んだ。
「さすが理名ちゃん。
復帰して早々、勉強家だね。
でも、無理しちゃダメだよ?」
「ううん。
皆が忙しい合間を縫ってノートのコピーをたくさんくれたんだもの。
その恩に報いなきゃダメだからさ」
「理名、いい子!」
「ほんとほんと。
いい友達を持ったなぁ」
久しぶりに、皆で連れ立って食堂に行った。
窓から暖かい木漏れ日がさす感じも、食券を求める列も、全てが懐かしい。
久しぶりだから胃にやさしいものをと、うどんを注文する。
本当は、好物のかつ丼を食べたかったが、またの機会にする。
注文した品を受け取る時に、声を掛けられた。
「あら。
しばらく見かけなかったけど、大丈夫かい?
うどんの量と具の油揚げ、多くしておいたからね。
たくさんお食べ」
「ありがとうございます」
皆が、私を気にかけて、心配してくれたのだと思うと、嬉しかった。
席について、皆でいただきますを言って箸を割る。
皆でいろいろな話をした光景が脳裏に蘇る。
本気で、拓実くんの元カノさんに殴られたときは、このまま死ぬんじゃないかと思った。
もう二度と、こんなふうに気の置けない仲間と食事をすることができなくなると思っていた。
今、また皆とこうして美味しい食事をすることが出来ていることが、素直に嬉しかった。
幸せなことだと思えた。
瞼が滲んだ。
目から、ひとつ、ふたつと雫が零れる。
「理名ちゃん、どうした?」
麗眞くんの言葉に、私の周囲にいる仲間が一様に目を丸くしたり、口をぽかんと開けた。
「きっと、安心したのね。
あんなことをされて、肋骨を何本も折って……
死すらも覚悟したはずよ。
もう、私たちとこんなふうに食堂で他愛もない話をしながらご飯を食べることすら
できない、ってね。
医療従事者の娘だからなおさら。
でも、それが今ちゃんとできている。
私たちみたいな仲間がちゃんといる幸せを噛み締めたら、安堵の涙が零れてきた、ってところ
じゃないかな」
深月の言葉を肯定するように、何度も首を縦に振る。
「深月、超能力でもあるの?」
琥珀ちゃんがビックリしていた。
よしよしと、私の頭を撫でて、零れた雫を女子力の高い花柄のタオルハンカチで拭っているのは椎菜だ。
「大丈夫だよ。
私も、麗眞も。
他の皆も。
理名に何があっても、理名の側から離れたりしないから」
「ありがと……」
泣きながら食べたうどんは、少しだけ塩分が濃かった。
教室の前で琥珀ちゃんと別れて、2ヶ月ぶりの教室に入った。
私の方を見た顔触れは、随分と減っていた。
「理名のいじめの傍観者だった奴らは、全員退学させたからな。
親父が呆れていたよ、秋の編入で男女とも、かなりの数を入学させなきゃならないってな。
文化祭が勝負だとも言ってたぜ。
ウチの学園をアピールするチャンスだって」
久しぶりの授業は、生物だった。
皆が貸してくれたノートと、映像を映してくれた機械のおかげで、早い授業ペースにはついていくことができた。
帰宅しても、遅れを取り戻そうと必死に勉強した。
土曜日は、徹夜までした。
皆に、目の下の隈を心配されるのはしょっちゅうだった。
そのおかげだろう。
7月から始まった、高校に入学して初めての定期試験も、苦手な現代文こそ80点だったものの、その他の教科は90点以上を取ることができた。
終わった後は、学園近くのレストランで『お疲れ様会』と称した定期試験の終了を労う食事を皆でした。
琥珀ちゃんも一緒だ。
定期試験の翌週は、担任の先生と面談をした。
やっと、学校の雰囲気にも馴染めてきた頃だった。
男の先生よりも話しやすいのは嬉しかった。
定期試験が終わっても生理が来ないことも相談することが出来た。
試験勉強と、遅れを取り戻すための勉強で生活が不規則になったため、止まっているのかもしれないということだった。
困ったら、深月ちゃんみたいな親友でもいいけど、極力は担任の先生にも相談してほしいと言われた。
全校生徒は体育館に集められて、集会が行われた。
「明日から夏休みだ。
夏休み中も課題がある。
夏休み明けには、課題をしっかりやったかどうかをチェックする試験もある。
遊んでばかりいないで、きちんと勉強もしてください。
なお、先週の定期試験で赤点だったものは、夏休みに補習授業があります。
サボらずに出ること!」
私の親友たちの中には、赤点の人など誰もいない。
学年主任からのお小言は軽く聞き流して、帰宅したら夏休みだ。
高校最初の夏休み。
最高の親友たちと、好きな人である拓実くん。
彼らと良い思い出が、作れそうな気がした。
にらめっこしている間に、新しい担任の先生は、HRを終えて、職員室で自分の仕事をしているらしい。
授業終わりを告げるチャイムが鳴る。
その音さえも、懐かしく感じた。
お昼になり、麗眞くん、椎菜。
華恋に美冬。
深月だけじゃなく、クラスが違うはずの琥珀ちゃんまでも保健室に来てくれた。
「理名ちゃんだ!
久しぶり!
会いたかった!」
力を加減してくれているのか、背中に回る腕の力はソフトだった。
「拓実くんが好きなんだよね、協力するね!」
なぜ、琥珀ちゃんがそのことを知っているのだろう。
それについて、深くは聞かなかった。
麗眞くんが、保健室の机の様子を見やって、微笑んだ。
「さすが理名ちゃん。
復帰して早々、勉強家だね。
でも、無理しちゃダメだよ?」
「ううん。
皆が忙しい合間を縫ってノートのコピーをたくさんくれたんだもの。
その恩に報いなきゃダメだからさ」
「理名、いい子!」
「ほんとほんと。
いい友達を持ったなぁ」
久しぶりに、皆で連れ立って食堂に行った。
窓から暖かい木漏れ日がさす感じも、食券を求める列も、全てが懐かしい。
久しぶりだから胃にやさしいものをと、うどんを注文する。
本当は、好物のかつ丼を食べたかったが、またの機会にする。
注文した品を受け取る時に、声を掛けられた。
「あら。
しばらく見かけなかったけど、大丈夫かい?
うどんの量と具の油揚げ、多くしておいたからね。
たくさんお食べ」
「ありがとうございます」
皆が、私を気にかけて、心配してくれたのだと思うと、嬉しかった。
席について、皆でいただきますを言って箸を割る。
皆でいろいろな話をした光景が脳裏に蘇る。
本気で、拓実くんの元カノさんに殴られたときは、このまま死ぬんじゃないかと思った。
もう二度と、こんなふうに気の置けない仲間と食事をすることができなくなると思っていた。
今、また皆とこうして美味しい食事をすることが出来ていることが、素直に嬉しかった。
幸せなことだと思えた。
瞼が滲んだ。
目から、ひとつ、ふたつと雫が零れる。
「理名ちゃん、どうした?」
麗眞くんの言葉に、私の周囲にいる仲間が一様に目を丸くしたり、口をぽかんと開けた。
「きっと、安心したのね。
あんなことをされて、肋骨を何本も折って……
死すらも覚悟したはずよ。
もう、私たちとこんなふうに食堂で他愛もない話をしながらご飯を食べることすら
できない、ってね。
医療従事者の娘だからなおさら。
でも、それが今ちゃんとできている。
私たちみたいな仲間がちゃんといる幸せを噛み締めたら、安堵の涙が零れてきた、ってところ
じゃないかな」
深月の言葉を肯定するように、何度も首を縦に振る。
「深月、超能力でもあるの?」
琥珀ちゃんがビックリしていた。
よしよしと、私の頭を撫でて、零れた雫を女子力の高い花柄のタオルハンカチで拭っているのは椎菜だ。
「大丈夫だよ。
私も、麗眞も。
他の皆も。
理名に何があっても、理名の側から離れたりしないから」
「ありがと……」
泣きながら食べたうどんは、少しだけ塩分が濃かった。
教室の前で琥珀ちゃんと別れて、2ヶ月ぶりの教室に入った。
私の方を見た顔触れは、随分と減っていた。
「理名のいじめの傍観者だった奴らは、全員退学させたからな。
親父が呆れていたよ、秋の編入で男女とも、かなりの数を入学させなきゃならないってな。
文化祭が勝負だとも言ってたぜ。
ウチの学園をアピールするチャンスだって」
久しぶりの授業は、生物だった。
皆が貸してくれたノートと、映像を映してくれた機械のおかげで、早い授業ペースにはついていくことができた。
帰宅しても、遅れを取り戻そうと必死に勉強した。
土曜日は、徹夜までした。
皆に、目の下の隈を心配されるのはしょっちゅうだった。
そのおかげだろう。
7月から始まった、高校に入学して初めての定期試験も、苦手な現代文こそ80点だったものの、その他の教科は90点以上を取ることができた。
終わった後は、学園近くのレストランで『お疲れ様会』と称した定期試験の終了を労う食事を皆でした。
琥珀ちゃんも一緒だ。
定期試験の翌週は、担任の先生と面談をした。
やっと、学校の雰囲気にも馴染めてきた頃だった。
男の先生よりも話しやすいのは嬉しかった。
定期試験が終わっても生理が来ないことも相談することが出来た。
試験勉強と、遅れを取り戻すための勉強で生活が不規則になったため、止まっているのかもしれないということだった。
困ったら、深月ちゃんみたいな親友でもいいけど、極力は担任の先生にも相談してほしいと言われた。
全校生徒は体育館に集められて、集会が行われた。
「明日から夏休みだ。
夏休み中も課題がある。
夏休み明けには、課題をしっかりやったかどうかをチェックする試験もある。
遊んでばかりいないで、きちんと勉強もしてください。
なお、先週の定期試験で赤点だったものは、夏休みに補習授業があります。
サボらずに出ること!」
私の親友たちの中には、赤点の人など誰もいない。
学年主任からのお小言は軽く聞き流して、帰宅したら夏休みだ。
高校最初の夏休み。
最高の親友たちと、好きな人である拓実くん。
彼らと良い思い出が、作れそうな気がした。