ビターチョコ
夏休みに入って、1週間が経った。
夏休みの始まりを待ちわびていたかのように来た生理。
憂鬱だった。

その期間も終わって、気分は夏の日差しみたいに晴れやかだった。

今日も普段は着ない、ワンピースなんて着てみている。

深月に、前に華恋と行ったことがあるショッピングモールへ行き、見繕ってもらった服だ。

黒いトップスに薄いブルーのベアトップワンピースをドッキングさせたデザイン。

ウエストマークで身長の高さが際立つ上に、サイドにはグレーのチェック柄が覗いている。

それに黒のローファーを合わせて、黒いショルダーバッグを肩から下げる。
電車に乗って、待ち合わせ場所の「みなみとうと」駅で降りる。

駅のロータリーに着くと、もう待ち人は来ていた。
「拓実くん!」

「あ、理名ちゃんだ。
おはよう。
またこの間……っていっても、随分前になっちゃったけど、
あのレストランのときと、全然雰囲気違うね。
ワンピース、背の高い理名ちゃんに、とても似合ってる」

開口一番、そんなことを言ってくれるものだから、どんな反応をしていいのか、
全く分からない。

「おはよ、拓実くん。
ありがと。
褒めてくれて、嬉しい」

顔を赤くした私の頭を軽くぽんぽんと撫でてから、映画館に向かって歩き出した。

2人分のチケットとポップコーン、飲み物を買って、アナウンス通りに劇場に入る。

暗闇で見えづらいからと、席に行くまで手を握られていたのも、私の心臓を跳ねさせるには十分だった。

映画は2時間弱で終わった。

その後は、私が指定したカフェに行って、映画の感想をはじめとしてたくさん話をした。

「あ、そうそう。
帳 琥珀ちゃん、って知ってる?
拓実くんのこと、知ってるっぽいんだけど」

「知ってるも何も、中学生の頃からの付き合いだよ。

言ってなかったっけ?
俺、中学生の頃は相当荒れてたの。

親の跡を継ぐなんて、決まったレールが敷かれている人生なんだなって思ったら、嫌になってね。

夜な夜な家を出ては、バイクを乗り回して、別のヤンキー集団に絡んだ割に、ボコボコにした奴らはちゃんと手当してやった。

医者志望の端くれだしね。

俺がいたグループのその総長が、理名ちゃんの知り合い、帳 琥珀ちゃん、ってわけ」


拓実くん、元ヤン、ってやつだったの!?
2回目に会った時、男3人をあっさりなぎ倒すことが出来たのは、そういう理由からか。
その話が、一番びっくりした。

「暗い話になっちゃうから、なんで医者を目指したのか、ってことは、また時期を見て話させてよ」

上手く話をはぐらかされた気がする。

でも、拓実くんなら、折を見てちゃんと話してくれる。
拓実くんの誠実さは、会って数回しかないけれど、随所に滲み出ている。

私は抹茶パフェ。
拓実くんはチョコレートパフェを堪能した。
拓実くんはスイーツ男子だと知って、また1つ、拓実くんに関する知識が増えた。

夕方18時になって、駅で解散した。

帰り際に、拓実くんからまた言われた一言が、また私の夏休みの楽しみを増やした。

「言ってなかったけど、俺、卓球部に入っているんだ。
だいぶ慣れてきて、試合にも出させてもらえるくらいにはなったから、応援に来てよ!

理名ちゃんが来てくれれば、百人力だ。
頑張れる気がする。

日時に関しては、改めてメールで伝えるよ。

今日は楽しかった。
気を付けて帰ってね」

挙げた片手をひらひらと振って、改札を通った拓実くん。
私は、彼が見えなくなるまで、見送っていた。

今日はいい日だ。
久しぶりに、ぐっすり眠ることができた。
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