●全力妄想少年●
「絵梨佳ね、井上先生の家を知ってるんだなあ」


余裕の表情で黙っていた鈴木さんが、ようやく口を開いた。


井上先生?
体育の?
だからなんだ?


僕は訳が分からなかったが、中西さんを見ると、顔がぽうっと赤くなっているのが分かる。


「井上先生の家の場所教えてあげるから、中西さんも……ねっ!」


僕には理解できないが、今、確実に2人の間で何かの取り引きが行われたらしい。


「……私鉄の駅の方向よ」


中西さんは少しふてくされた顔で、でもどことなく嬉しさも浮かばせながら、答えた。


「やったあ!これで居場所が絞れたわ!!」


鈴木さんが、僕が喜ぶよりも先に、満面の笑み飛び跳ねるから、僕はガッツポーズしようとして出した右手の居場所を失った。


鈴木さんには誰も適わない。
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