●全力妄想少年●
ポケットの音楽プレーヤーにスイッチを入れようとしたとき、ようやく彼女は僕の存在に再び気付いてくれた。


「ぼうや」


そう言って彼女は、僕と同じ目線になる高さまでしゃがみこんだ。


イヤホンから微かに音楽が聴こえてくる。


そして僕は、その時、初めて彼女が笑うのを見た。


「ありがとうね」



身体中に電流が走った、


いや違う。それじゃあ足りない



僕の中の、パワーというパワーが目を覚まし、全身を駆け巡ったかと思うと、今度はそいつらが全て彼女に向かって出ていってしまったかのような、


まるでその場にへなへなと倒れこんでしまいそうな、


脱力感。


「バイバイ」


そう言って立ち去る彼女に何も声が掛けられないほどの、


脱力感。




愛に目覚めた――ぼうっとする意識の片隅で、僕は静かにそう確信した。
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