白い海を辿って。
◆第三章◆
緩やかな一歩。
【Haruta Side】
一歩踏み出せば触れられる距離にいる彼女が、ものすごく遠くにいるように思えて動けなかった。
さっき俺が背中にかけたジャケットにくるまるように立ち尽くし、困ったように俯いているその表情に胸騒ぎがおさまらない。
何も考えずに頭に手を置いただけだった。
先生と呼ばれたことをとがめたくて、こうすれば女の子は誰だって喜ぶだろうという打算もあった。
でも彼女は驚いたように顔を上げて、その驚きをすぐに怯えに変えて俺から逃れた。
触れてはいけなかった。
こんなに軽い気持ちで。
「ごめん、急に触ったりなんかして。」
とっさに謝った俺に、彼女は心底困った表情を向けた。
何か言いたいけれど何も言えない。
そんな風に黙ってしまった彼女に俺も言葉を失くす。
ついさっき見た、楽しそうな笑顔がすごく遠くに感じた。
俺が見たいのはその笑顔なのに、1度固くなった表情はなかなか戻らない。