白い海を辿って。

「だから、これからも会ってくれるよね?」


体を彼女の方に向けて言うと、彼女がぱっと顔を上げる。

その救われたような表情が、答えだった。


こんな風に、誰かを失ったことがあるのかもしれない。

何も始まらないうちに、去って行った人がいたのかもしれない。


そのとき不意に頭に浮かんだ理瀬さんの顔を必死にかき消す。



「俺は、いなくなったりしないから。」


すぐ近くにある手を握ろうかどうか迷って、やめる。

こんなにも誰かに触れたいと思うのは初めてだった。

それ以上に大事にしたいと思うことも。



『また来たいです、ここ。』

「うん。また来よう。」


いつか彼女は俺を頼ってくれるだろうか。

特別でいたいじゃなくて普通でいたいなんて、どうしてそんなことを思うのか。

いつか、話してくれるだろうか。


静かな水の音と、目の前に広がるオレンジの夜景。


いつか俺が彼女を見失いそうになっても、ここに来ればすぐに見つけられる気がした。



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