白い海を辿って。
再会と別れの気配。
【Shuto Side】
指輪を外して3週間が経った。
4年間ずっと左手の薬指にはめていた結婚指輪。
理瀬 秀人、28歳。
紆余曲折も何もなく生きてきた平凡な人生だ。
普通以外の生き方になんて興味がなかった。
職場は自宅から車で30分で通える自動車教習所。
子供の頃から車が好きで、10代の頃に初めて持った目標が教官になることだった。
目標とはいえ、教官になるのは想像以上に大変だった。
一生分の勉強をしたと思ってはまた勉強して、そしてまた勉強しての繰り返し。
だけどこれだけ大変なら、長く勤められるだろうと安心しきっていた。
ただ毎日を普通に過ごせればそれで良かった。
そんな俺に降りかかった人生初の普通じゃない出来事。
結婚して4年目の妻が、家を出て行った。
『離婚』という言葉を残して。
だからなんとなく指輪を外した。
そうじゃないと現実感が持てなかったのだ。
そして外して3週間目のある日、あの子に会った。