白い海を辿って。

「わぁ、すごい!もうイルカがいますよ!」


水族館に着いて入り口へと向かっていると、その前にイルカのオブジェがあった。

思わず駆け寄ってしまった私に、青井さんが本当だねと笑いながらついて来る。



『本物のイルカも見に行こう。』

「はい!」


そう言って手を差し出した青井さんに一瞬ドキリとしたけれど、その手は入り口の方を指差していた。

手、繋ぐのかと思った。



「綺麗だなぁ。」


静かな水族館の中に広がる大きな海の景色。

水槽の中をゆったりと泳ぐ魚たちはとても優雅だ。


ひとつひとつの水槽を見て回る私に、青井さんは退屈することなく一緒にいてくれた。

綺麗だねとか可愛いねとか言い合っていると、青井さんも楽しんでいることが伝わってきてほっとする。


館内は平日にしては人が多かった。

外国から観光客がこんなに来ているなんて知らなくて、人気の水槽の前は混雑している。


手にかけたコートの端を思わずぎゅっと握りしめると、そのコートが横からすっと引き抜かれた。



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