白い海を辿って。
袖を通したコートがすとんと体に馴染む。
「ありがとうございます。」
着せてくれたことに対してなのか青井さんが言ってくれたことに対してなのか分からないけれど、自然とそう言っていた。
たぶん、今までのこと全部に対してだと思う。
再会してから今日まで。
一緒に出かけてくれて、ここへ連れて来てくれて。
すいませんじゃなくてありがとう、素直にそう思っていた。
『どういたしまして。』
青井さんはそう言って、そのまま後ろから私をそっと抱きしめた。
嫌だとは思わなかった。
怖いとも思わなかった。
ただその広い腕の中で、青井さんの体温だけを感じていた。
『俺、滝本さんのことが好きなんだ。』
青井さんの腕に手を添えて、そっと顔を埋める。
理由もなく涙が溢れてきて止まらない。
嬉しい。
はっきりとそう思っていた。
「ありがとう…。」
『好きだよ。』
さらにぎゅっと強くなった腕を、それよりも強い力で自分から離す。