白い海を辿って。
「ねぇ、ひとつ聞いてもいい?」
『何でもどうぞ。』
「どうして私のこと覚えててくれたの?」
帰り道の車内で、私は敬語にならないように気をつけながら聞く。
たった2ヶ月通っただけの教習所。
次から次へと入っては卒業していく教習生たち。
彼は気さくに話してくれたけれど、とくに印象に残る話をした記憶もなかった。
『理由を聞かれると難しいんだけど、覚えてたって言うより、忘れられなかった。』
「私、何かしたかな。」
『してないよ、何も。でもなんだろう。笑ってくれると嬉しかったんだよね。』
笑ってくれると嬉しかった。
その一言を心の中で繰り返す。
『最初はいつも不安そうな顔してるなーって思ってた。でもたまに安心したように笑ってくれるの見て…たぶんもうそのときには好きになってたんだろうな。』
まっすぐに前だけを見て運転する横顔を見つめる。
今日だけで、どれだけの嬉しいをもらっただろう。