白い海を辿って。

『実は俺も、話したいことがあって。』

「え?」


思わぬ一言に彼の横顔を見る。

俺もってことは、私が何か話そうとしていると雰囲気から気付いていたんだ。



『あとでお互いゆっくり話そう。だからご飯は楽しく食べような。』


赤信号で止まり、空気を緩めるように笑って私の頭に手を置く。

それだけで胸が詰まって泣きそうだった。



「ありがとう。」


青信号になり発進すると、その手はハンドルに戻る。


初めてこうして頭に手を置かれたとき、私は思わず避けてしまった。

だけど今は、この手が離れてほしくないと思う。



「今日も綺麗…。」

『明日実、これ持って行きな。』


彼のおかげで楽しく食事をした後、約束通りあの川辺に来た。

久しぶりに見るオレンジの景色はやっぱりとても綺麗で、ふっと空気をやわらげてくれる。


彼が渡してくれたペットボトルの紅茶に、心もやわらかくなった。



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