白い海を辿って。
『私、大学を入ってすぐに中退したんです。』
ふいに話し始めた彼女の声を、ひとつ残さず聞き逃さないよう耳を傾ける。
『1年のときに告白してくれた先輩がいて…優しそうな人だったから付き合うことにしたんです。』
「うん。」
『そんなによく知らなかったけど、付き合い始めたらすごくいい人で楽しかった。だけどその人ね、就活がうまくいかなくて…』
ただ淡々と、思い出をなぞるように話す彼女の表情を髪が隠す。
ペットボトルを握っている手をはがし、そっと握る。
『なかなか内定が貰えずにどんどん追い詰められていって、私と会える日も少なくなってたときにね…私が男の人と一緒にいるのを見たって言ってきて。』
少し震えた声に、ぎゅっと手の力を強くする。
『その人はただの同級生だったのに、俺が就活してる間に浮気するのかって怒り出して。その日から…ストーカーみたいになった。』
胸が締めつけられて痛い。
何の言葉も挟むことができず、ただその先を待つことしかできない。