白い海を辿って。
『束縛が激しくなったから怖くなって、だんだん私が避けるようになったの。そうしたら私が家を出てから帰るまでずっと後をつけられるようになって。』
少し呼吸が浅くなっている彼女の背中をさする。
俺にできることなんて、それくらいしかなかった。
『その内就活を放り出したのか、私が行く先々まで追って来るようになって。同級生の男子が一緒だったとき、急に彼が現れて髪を引っ張って連れて行かれた。』
初めてここで会ったとき、何も考えずに彼女の頭に手を置いた自分を思い出す。
その手から逃れるように体を離した彼女の表情は、忘れることなく頭に焼きついている。
もう二度とこんな表情はさせたくないと思った。
『友達が見てたから、その話が一気に広まっちゃって。私と彼は同じ大学だったし、彼はすぐに暴力彼氏だって言われて、私は…腫れ物みたいに誰も話しかけてくれなくなった。』
そんな現場を見て彼女を助けることもせず話を広めるなんて、それのどこが友達だと思ったけれど、彼女はきっと友達だと思っていた。
だからこそ孤立したことに傷ついたはずだ。