白い海を辿って。

『それで大学にいづらくなって休学することにしたの。でも、バイトも辞めてずっと家にいるようになっても彼は変わらなくて…。』


ひとつ引っかかっていることがあった。

暴力彼氏。

そう言われた理由。



「明日実。」


今聞くのは酷かもしれないと分かってはいた。

だけど後日改めて聞く方が、彼女にまたつらい過去を思い出させてしまう。



「その彼氏に、何かされたのか?髪を引っ張られたこと以外にも…その…。」

『暴力、とか?』


顔を上げた彼女は、とても心配気な表情をしていた。

その表情に、自分が今すごく動揺していることを気付かされる。



『大丈夫。ちょっと叩かれたりとか、それくらい。』


しっかりしなきゃいけないのは俺なのに。

俺を安心させようとぎこちなく笑う彼女に胸が裂けるように痛む。


大丈夫なはずがないんだ。

精一杯強がって笑おうとしても震えてしまう声が、揺れる瞳が、本当は“それくらい”なんかじゃなかったことを示している。


本当は、きっと…もっと…。



< 140 / 372 >

この作品をシェア

pagetop