白い海を辿って。
『それで大学にいづらくなって休学することにしたの。でも、バイトも辞めてずっと家にいるようになっても彼は変わらなくて…。』
ひとつ引っかかっていることがあった。
暴力彼氏。
そう言われた理由。
「明日実。」
今聞くのは酷かもしれないと分かってはいた。
だけど後日改めて聞く方が、彼女にまたつらい過去を思い出させてしまう。
「その彼氏に、何かされたのか?髪を引っ張られたこと以外にも…その…。」
『暴力、とか?』
顔を上げた彼女は、とても心配気な表情をしていた。
その表情に、自分が今すごく動揺していることを気付かされる。
『大丈夫。ちょっと叩かれたりとか、それくらい。』
しっかりしなきゃいけないのは俺なのに。
俺を安心させようとぎこちなく笑う彼女に胸が裂けるように痛む。
大丈夫なはずがないんだ。
精一杯強がって笑おうとしても震えてしまう声が、揺れる瞳が、本当は“それくらい”なんかじゃなかったことを示している。
本当は、きっと…もっと…。