白い海を辿って。

『はるくん、私ね。』

「ん?」


彼女が腕の中から抜け出そうとしてそっと力を緩める。



『私、今もまだ診療内科に通ってる。』

「うん。」

『眠れない日があるから、薬飲んでる。』

「うん。」


そこまで言ってふつっと黙ってしまった彼女をただ見つめる。

俯いて唇を噛んで、何か言おうとしてためらっているような。



「明日実。俺は明日実を嫌いになったりしないよ。面倒だとも思わないし、それが普通じゃないなんてことも思わない。俺が好きになったのは、そのままの明日実だから。」


顔を上げた頬は、涙のあとでいっぱいだった。

きっと明日実が1番恐れているのは、普通じゃないと言われることだ。



『友達は皆いなくなった。彼につけられたとき、助けてほしくて電話しても面倒だって言われた。自分が付き合ったんだから自分でなんとかしなよって。』


これ以上を彼女を傷つけないでくれと思う。

巻き込まれたくなかったのかもしれない。

だけどそのとき、ほんの一瞬でも手を差し伸べてくれていたら彼女は救われたのに。



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