白い海を辿って。
『彼が家に来たりして、家族にもいっぱい迷惑かけちゃった。今だってまだ心配かけてばっかり。』
水族館へ行きたいと言ったとき、彼女は家族に頼めないと言った。
面倒だと思われることを、こんなにも怖がっている。
「これからは何でも俺に言えばいいよ。どんな不安も、わがままも、何でも俺に言えばいい。」
声もなく頷いた彼女を、もう1度優しく引き寄せる。
1度ついた傷はそう簡単には消えないだろう。
だけど薄くしていくことならできる。
きっと、俺にも。
彼女を苦しめた彼氏は、彼女の家族によって警察へと通報された。
彼女の自宅へ彼氏の両親が謝罪に来て、県外へ引っ越すことを約束した。
そうして平穏な日常が戻っても、彼氏の記憶は彼女の中に残り苦しませ続けている。
楽しい思い出を沢山作ろうと思った。
心に傷を抱えている、そんなフィルターはなしにして、ただ穏やかに毎日を過ごそうと。
彼女がもっと、笑顔になれるように。