白い海を辿って。

『彼が家に来たりして、家族にもいっぱい迷惑かけちゃった。今だってまだ心配かけてばっかり。』


水族館へ行きたいと言ったとき、彼女は家族に頼めないと言った。

面倒だと思われることを、こんなにも怖がっている。



「これからは何でも俺に言えばいいよ。どんな不安も、わがままも、何でも俺に言えばいい。」


声もなく頷いた彼女を、もう1度優しく引き寄せる。


1度ついた傷はそう簡単には消えないだろう。

だけど薄くしていくことならできる。

きっと、俺にも。


彼女を苦しめた彼氏は、彼女の家族によって警察へと通報された。

彼女の自宅へ彼氏の両親が謝罪に来て、県外へ引っ越すことを約束した。


そうして平穏な日常が戻っても、彼氏の記憶は彼女の中に残り苦しませ続けている。


楽しい思い出を沢山作ろうと思った。

心に傷を抱えている、そんなフィルターはなしにして、ただ穏やかに毎日を過ごそうと。


彼女がもっと、笑顔になれるように。



< 143 / 372 >

この作品をシェア

pagetop