白い海を辿って。
「早見先生。」
その数日後、仕事が終わるタイミングを見計らって早見先生に声をかけた。
彼女の話を、俺は1人でうまく消化しきれずにいた。
彼女の記憶を薄れさせる為に、俺には何ができるのか。
考えれば考えるほど自分の無力さを突き付けられるばかりだ。
だから彼女のことを1番気にかけて理解していた早見先生に、相談に乗ってほしかった。
『どうした?』
「ちょっと相談に乗ってもらいたいことがあって。時間、いいですか?」
『あぁ。』
自分で思っている以上に深刻な顔をしていたのかもしれない。
早見先生の顔が心配気になり、その緊張をほどくようにふっと笑う。
『飯でも行くか。』
「はい。」
早見先生は結婚しているし、子供さんもいる。
早く帰りたいはずなのにこうして付き合ってくれる優しさが沁みる。
『お疲れさん。』
「お疲れ様です。」
2人で向かった個室居酒屋で共にウーロン茶を頼み乾杯する。
仕事柄、翌日も仕事の日は酒は飲まない。