白い海を辿って。
休みのところ本当に申し訳ない、でも今日は予約がいっぱいでどうしても手が足りない、そんなことを本当に切羽詰まったように言われる。
『どうしたの?大丈夫?』
スマホ片手に動きを止めた俺に彼女が心配そうに聞く。
「ごめん、急に仕事になった。」
『え?』
「本当にごめん。約束してたのに。」
『そんな、お仕事だったら仕方ないよ。また今度行こう。』
彼女の声を聞いて、ショックを隠しきれていないのは俺の方なのだと気付く。
気を遣わせてしまったことが情けなくて、必死で仕事へと気持ちを切り替える。
「ありがとう。絶対今度行こうな。」
『うん。』
抱き寄せてしまえば離れ難くなると分かっているから、1度だけぎゅっと手を握った。
急いで仕事着へと着替える隣で帰り支度をする彼女は、寂しさや落胆を感じさせない。
俺が何の気がかりもなく仕事へ行けるようにしてくれているようで、その気遣いにまた胸が詰まる。