白い海を辿って。
バスで帰るという彼女をバス停で降ろしてから教習所へ向かった。
気をつけてと見送ってくれた彼女の表情が少し曇っていたことに落ち込みそうになりながら、仕事に集中と自分に言い聞かせる。
『大変だったな。』
教官室に入ると真っ先にそう声をかけてくれたのは理瀬さんだった。
「はい、でも仕方ないですね。」
『大丈夫だったか?予定とか。』
「…はい、大丈夫です。」
こんな風に無邪気に聞かれたことに一瞬驚く。
大丈夫じゃないですよ、彼女と出かけるはずだったのにと答えたら理瀬さんはどう思うだろうか。
俺が彼女と付き合っていることを理瀬さんは知らない。たぶん。
早見先生から耳に入らないものかと密かに思っていたけれど、理瀬さんには何も伝わっていないようだ。
彼女と過ごしている中で彼女から理瀬さんの気配を感じたことはほとんどなくて、ただ俺が一方的に意識しているだけなのかもしれない。
彼女は何もなかったと言っていたのに、どうしてこんなに気になってしまうのだろう。