白い海を辿って。
「あの、理瀬さん。」
『ん?』
そんなことを考えていたら無意識に声をかけていて、俺の心中なんて知らない理瀬さんが柔らかく答える。
「すいません、何でもないです。」
『え?何?気になるだろ。』
冗談めかして笑う表情は柔らかくて、あぁ理瀬さんが戻ってきたなと思う。
離婚してからしばらくはどことなく思い詰めているような雰囲気だったけれど、最近はトンネルを抜けたみたいにいつもの穏やかな理瀬さんだ。
「すいません。その後どうかなとか思っちゃって。失礼ですよねこんなこと。」
『ははっ、いいんだよ別に。普通に暮らしてるから。』
「…また誰かと付き合いたいとか思いますか?」
失礼を承知で聞いてみると、理瀬さんは今度は笑い飛ばしたりしなかった。
『難しいこと聞くね。』
「すいません。」
『今はまだ考えられないかな。もう誰も傷つけたくないって思うから。それが大切な人なら尚更ね。』
こんな質問にも真剣に考えて答えてくれる理瀬さんは、やっぱりとてもいい人で。
だからこそ結婚がうまくいかなかったことが意外だった。