白い海を辿って。
『で、今どこだ?』
「わかんない。」
『は?』
近くに何があるのかを見える限りで伝えると兄はそこを動くなとだけ言って電話を切った。
私の前に車が停まったのはそれから数分後で、兄が中から助手席を開けてくれる。
「ありがとう。」
『歩いて帰れるわけないだろ?しかも逆方向だし。』
「ごめんなさい。」
まっすぐ帰る気になれなかったとか、ひとりになりたかったとか、そんなことは全部言えなくてただ一言謝る。
ひとりになりたかった。
ひとりになれたことに、安心していた。
『まぁいいけどさ。青井さんに連絡しとけよ。』
「うん。」
彼はきっと、私を心配して兄に連絡してくれたんだと思う。
それは分かっているはずなのに、手が動かない。
『いい人だな。優しくて。』
「そうだよね。」
それきり、兄は何も言わなかった。
何も話したくない私の気持ちをどこか察していたのかもしれない。