白い海を辿って。
「でも、見たんだよね。」
黙ってしまった彼の、静かな息づかいだけがかすかに聞こえる。
名前を失い、ただの数字の羅列になってしまっていた番号。
紛れもない、理瀬先生の番号。
『様子を見に行ったらスマホが鳴ったんだ。見るつもりじゃなかったんだけど振動に驚いて見てしまった。』
「それで、連絡先を消したの?」
『…ごめん。』
自分で先生の連絡先を消去した覚えはなくて、彼が見た画面には数字じゃなくて先生の名前が出ていたはずだ。
聞きたいことも言いたいことも沢山あるはずなのに、どうしても言葉が出てこない。
寝ている私の指にあてて指紋認証を解除することなんて、とても容易いことだと知っている。
過去に何度もされてきたことだから。
だけど、ただただ悲しい。
この人は大丈夫だと、1度は心から信頼した彼に同じことをされたことが。
もっと慎重になるべきだったのか、もっと早くに自分で連絡先を消しておけば良かったのか。
考えても考えても、悪いのは全部自分だとしか思えない。