白い海を辿って。
普通に元気。
普通じゃない元気があるのか…?
分からない。
やっぱり俺は、彼女のことを何も知らない。
ロビーで担当する生徒の名前を呼ぶと、彼女が通っていた頃は彼女の名前を呼ぶ度に嬉しさを感じていたことを思い出した。
そんな思いを感じたことは、俺がこの仕事をしてきた中で1度もなかった。
同僚も皆、それなりの理由と覚悟を持って教官になっている。
自分が免許を取得する際にお世話になった教官が忘れられない。
車が好きだから車を好きになってもらえる仕事がしたい。
そんな理由を聞く度に自分はつまらない人間だなと思った。
長く勤められるだろうからいいだなんて、最初から充実を諦めている。
就職して、適当な年齢で結婚して、そのうち子供ができて穏やかに暮らす。
俺の人生はそれで充分だったはずなのに、どこで間違えたのだろうか。
なぜ妻は家を出て行き、なぜ俺はそのことに関して何も感じないのだろう。