白い海を辿って。

「本当に何もなかったんだよ。」


何も言葉を続けない彼にたまらなくなって口を開く。

自分だけが勝手なことをされて、自分だけが傷ついているような気でいた。

だけど私も同じだけ、いやそれ以上に、彼を傷つけていた。


彼だけじゃない。


会いたくなったら連絡してもいいですかと、最後に先生に言ったのは私だ。

可能性を残すような言い方をして、いつか先生に向き合う為の時間を作ったのも私だ。

だけど私は連絡もしなかったし、向き合うことからも逃げた。

逃げて、そのとき傍にいてくれた彼に寄りかかった。


先生はがっかりしただろうか。

あのときの私の気持ちなんて、結局そんなものだったと思っただろうか。


ずっと取っていなかった連絡。

思わず電話をかけてしまうくらい、先生は今私に何を伝えようとしているの…?



「正直に言うとね、私は理瀬先生のことが好きだった。」


彼がこちらを向いた気配がするけれど、俯いたまま顔をあげることができない。



< 191 / 372 >

この作品をシェア

pagetop