白い海を辿って。
「本当に何もなかったんだよ。」
何も言葉を続けない彼にたまらなくなって口を開く。
自分だけが勝手なことをされて、自分だけが傷ついているような気でいた。
だけど私も同じだけ、いやそれ以上に、彼を傷つけていた。
彼だけじゃない。
会いたくなったら連絡してもいいですかと、最後に先生に言ったのは私だ。
可能性を残すような言い方をして、いつか先生に向き合う為の時間を作ったのも私だ。
だけど私は連絡もしなかったし、向き合うことからも逃げた。
逃げて、そのとき傍にいてくれた彼に寄りかかった。
先生はがっかりしただろうか。
あのときの私の気持ちなんて、結局そんなものだったと思っただろうか。
ずっと取っていなかった連絡。
思わず電話をかけてしまうくらい、先生は今私に何を伝えようとしているの…?
「正直に言うとね、私は理瀬先生のことが好きだった。」
彼がこちらを向いた気配がするけれど、俯いたまま顔をあげることができない。