白い海を辿って。
『青井くん。』
仕事を終えて彼女に連絡しようとしているところに声をかけられた。
「理瀬さん。お疲れ様です。」
『お疲れさん。』
いつもは挨拶だけをしてすぐに車に乗る理瀬さんが、そこに立ち尽くしている。
なんとなく深刻な気配を感じて、連絡しないままスマホをポケットにしまう。
結局ゆっくりと話をしないまま、理瀬さんが異動する前日になっていた。
『滝本さんから何て聞いてるのか分からないし、何も聞いてないかもしれないけど…』
いきなり彼女の名前が出てきて、鼓動が一気に速くなる。
もうすぐ1年が終わる夜の中で、理瀬さんはどこか頼りなく寂しげに見えた。
『少し中で話せないかな。』
「はい、もちろんです。」
どこか申し訳なさそうで不安そうな先輩の姿に、今日まで俺の方から話そうとしなかったことを悔やむ。
それくらい、ずっと理瀬さんがひとりで思い詰めていたことが伝わってくる。