白い海を辿って。
『はるくん。』
「うん?」
翌日、仕事後に彼女と食事に行き、俺の自宅へ一緒に帰ってきた。
ソファーに並んで彼女が淹れてくれた温かい紅茶を飲んでいると、少し遠慮がちに名前を呼ばれる。
『あのね、今度会ってほしい人がいるんだけど。』
「会ってほしい人?」
『うん。仕事でお世話になってる佐原倫子さん。はるくんの話したら、会いたいって。どうかな?』
彼女は洋服や雑貨を販売するネットショップのスタッフで、佐原さんは彼女が“倫子さん"と呼んで慕っているオーナーだ。
彼女の体調のことも分かってくれている良き理解者だと聞いていた。
「大丈夫だよ。俺も会ってみたいし。」
『ありがとう。じゃあ話してみるね。』
ほっとしたような、だけど少し困ったような表情を見せて彼女はマグカップを両手で握る。
本心が読み取れない。
俺が勝手に理瀬さんの連絡先を消去する一件があってから、彼女は俺に心を閉ざしてしまったような気がしていた。