白い海を辿って。
そっと手を握ろうとしたとき、すっと彼女が立ち上がった。
行き場をなくして空中をさまよう手を戻し、彼女の背中を追う。
「明日実。」
シンクにマグカップを置いた彼女を後ろから抱き寄せる。
同じ部屋にいるのに、どこかへ行ってしまわないか不安だった。
「まだ怒ってる?」
『怒ってないよ。』
「もう絶対あんなことしないから。」
『だから怒ってないって。』
彼女はそっと俺の腕を掴んで放すと、振り返って向き合った。
『もう気にしないで。』
まっすぐに俺を見上げる彼女をもう1度抱きしめる。
優しさで言ってくれているのか、諦めのような気持ちで言っているのかは分からない。
でも今彼女がここにいて、離れようとしていないことが救いだった。
「今日泊まってく?」
『…うん。』
理瀬さんと話をして以降、彼女から理瀬さんの気配を消すことに必死だった。
かき消すように深くキスをして、控えめに俺の胸を押した彼女の手を掴んでさらに深く口づける。