白い海を辿って。
一緒にいたい人。
【Asumi side】
ひとりになった部屋で紅茶を飲みながら、手の中の鍵をもて余している。
彼の部屋、付き合いたての頃に一緒に買ったお揃いのマグカップ、受け取ったばかりの合鍵。
彼はもうとっくに仕事へ行って、ゆっくりしていけばいいよと合鍵を置いて行った。
恋人から合鍵を貰うなんてきっと本当はとても幸せなことで、自分のキーケースに付けて繰り返し眺めたりするんだろう。
でも今の私には、どう受け取ればいいのか分からなかった。
あの日彼によって消去された先生の連絡先は、あれから一度も私のスマホに表示されていない。
結局あれきりだった電話。
伝えようとしていた何かは分からないまま、私と先生は本当に終わったんだと思う。
彼とはそれからも、今まで通りの距離をずっと保とうとしてきた。
だけどどこかでは無理のあることだと分かっていて、精一杯平常心でいるつもりでいても、彼の行動に対して怯えや恐怖を少しだけ抱くようになってしまった。