白い海を辿って。

行き先のないドライブは長くは続かなくて、俺は根負けしたように自宅へと帰ってきた。



「後で送るから、とりあえず。」


椎野さんは黙ったまま車を降りて、黙ったまま後をついてきて、黙ったまま部屋に上がった。

電気をつけると、まだ明るくなりきる前にキスをしてきた。



「ちょっと、」

『寂しいんでしょう?』

「そういうつもりじゃないって言ってるだろ。」


腕を振りほどいても思い切り抱きついてきて、またキスをされる。

身体を離そうともがいているうちにテーブルにぶつかって大きな音を立てても、椎野さんはしがみついてきた。



「なんで…。」


ようやく身体を引き離すと、溜め息に近い声が漏れた。

なんで、俺なんだ。

なんで、今なんだ。



『なんでって、それはこっちのセリフなんですけど。なんでダメなんですか?いいでしょ1回くらい。』

「バカなこと言うな。」


ついに本音が漏れたと思った。

俺のことが気になるとか好きとかそんなんじゃなくて、寂しい俺なら相手をしてくれると思ったのだろう。



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