白い海を辿って。

『クリスマスに1人でいたくないと思うことがバカなことなの?』

「1回くらいいいとか言うことだよ。」

『バカはそっちじゃん…』


もう言葉遣いもめちゃくちゃになっている椎野さんは、身を投げ出すようにソファーに座る。

帰る気はないようだと諦めて、俺も固い椅子に座った。



『女を惨めな気持ちにさせる方がバカだよ。』

「終わってから惨めな気持ちになるのは椎野さんだから。」

『バカみたいに正しいこと言うのね。』


椎野さんにはきっとこんな夜が何度もあって、でもうまくいかなかった夜は1度もなかったのだろう。

どれだけつまらないと思われても、バカみたいに正しいことを言うしかない。

俺だって惨めな気持ちにはなりたくないのだから。



『そんなだから離婚するんだよ。』

「はいはい。」

『何?さっきの、幸せにしてあげられないって。そんな上から目線でいるからダメなんだよ。一緒にいて幸せになれる人に出会えばいいだけなのに。』


初めて、椎野さんの言葉が胸に突き刺さっていた。

一緒にいて幸せになれる人。



< 237 / 372 >

この作品をシェア

pagetop