白い海を辿って。

『理瀬さん元気だった?』

「うん。」


元気かどうかなんて本当は何も分からなかったけれど、そう答えるしかなかった。


私と彼のことを聞いてうまくリアクションできなかったことを気にしていた先生。

彼が何か誤解したんじゃないかと心配で電話をくれた先生。

大丈夫でしたと答えた私の声は、少し掠れていたと思う。


幸せでいてくれて安心したと言った、嘘のないまっすぐな声。

俺はひとりで元気にやってると言った、簡単に嘘だと分かる表情。


先生は今もひとりだった。


あのとき一緒にいたら、

そんな思いを必死で打ち消す。



『何か食べに行くか?待ってる間にこの辺走ってみたら、正月でも結構空いてる店あったぞ。』

「うん。」

『何がいい?』

「うん。」

『明日実。』


低くなった声のトーンで、上の空になっていたことに気付く。



「ごめん。」

『明日実。行くなよ。』


車は走り続けている。

まっすぐに前だけを見ている彼の言葉に、胸が詰まった。



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