白い海を辿って。
まだ知らない一面があるのなら、これから知っていけばいい。
それだけの話だ。
「食ってみたいなー、お母さんの手作りピザ。」
『きっと喜んで作るよ。』
様々な種類のピザが載ったチラシを珍しそうに眺める彼女をほっとした気持ちで見つめる。
『はるくん。』
注文の電話を終えると、彼女が2杯目の紅茶を淹れてくれていた。
どことなく不安気な表情が気になって、すぐに隣に座る。
『病院にいるときの私を見られたくないって言ったのは、嫌だっていう意味じゃないの。』
「うん。」
『私ね、診察の度に先生にあの頃のことを話すの。あの人にされたこととか、つらかったこととか、ひとつひとつ思い出しながら。』
俺に話してくれたときのことを思い返す。
少しずつ絞り出すように、懸命に話してくれた姿を。
『でも、いつも途中で止まっちゃう。話せなくなって、さっきみたいに…。』
「ゆっくりで大丈夫だから。」
そっと手を握り、その手の冷たさに驚く。