白い海を辿って。
『何も考えずにいられるからじゃないですか。』
「何も?」
『ここでこう言えば喜ぶだろうなとか、こういうのは好きじゃないだろうなとかいう計算。手の届かないような人とは計算し尽くさないと一緒にいられないけど、理瀬さんはさ、ないじゃんそういうの。』
褒められているのかいないのか。
いや、普通に褒められてないな。
『ずっと普通だから。たまに感情ないんかって思うけど、一緒にいると楽ですよ。言い方悪いかもだけど、何もしなくてもずっと上にいられるっていうか。』
「あぁ。」
『怒ってもいいとこですよ。』
「普通に納得しちゃって。」
女性にはいろいろあるのだろう。
いつも誰かより上で、誰かより幸せでいたいと思う。
確かに俺は、そんな駆け引きとは無縁だった。
「でもまぁ、さすがに感情はあるよ。」
『好きだから結婚したんですもんね。』
「そう、だな。」
いつからかなくなってしまった気持ち。
確かにあったはずの、消えてしまった想い。