白い海を辿って。

『今からでも行けばいいのに。』

「今は俺の後輩と付き合ってる。だから異動してきた。」

『は?何その女。』

「滝本さんを悪く言うな。」


あまりにもさらっと出てきた言葉に自分で驚く。

俺だって、最初はなんでだよって思った。

だけど今ではもう納得している。



「幸せでいてくれればそれでいい。」

『聖人か。』

「違うだろ。2人とも傷つけたのに。」


沈黙が漂う部屋にインターフォンが響き、1人で玄関へ向かう。

支払いを終えて戻ると、椎野さんがテーブルをティッシュで拭いていた。



「ありがとう。」

『布巾とかウエットティッシュとかないわけ?』

「今度買っとく。」


テーブルにまだ熱い容器を並べ、その量に笑う。

餃子、エビチリ、唐揚げ、麻婆豆腐、炒飯…。



「この時間にどれだけ食べる気だよ。」

『ちょっと太った方がいいですよ。痩せてて貧相だし貫禄もない。』

「はいはい。」


先程までの空気を全て戻してくれたことに心の中で感謝する。

滝本さんを女々しく思い出している心も、少し軽くなった気がした。



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