白い海を辿って。
『私ずっと考えてたんだけど。』
一通り荷物をバッグに詰め終えると、椎野さんはなぜか正座で俺に向き合う。
なんとなく真剣な気配を感じ取って、俺もソファーの上に正座した。
『このままでいるのは良くないと思って。』
「なにが?」
『全部。私と理瀬さんの関係も、理瀬さんとあの子の関係も。』
「あの子。」
それが滝本さんのことだと気付くまで多少の時間がかかった。
あの日以来2人の間に滝本さんの話題が出たことはないし、最後に会った日からはもう半年が経とうとしている。
『ずっと気になってた。私がなにその女って言ったこと。』
「言ってたな。」
『そのときに悪く言うなって言った理瀬さんの顔も、幸せでいてくれればいいって言った理瀬さんの顔も。』
自分ではどんな顔をしていたのか分からないけれど、あのときのどこか切なげな椎野さんの顔は覚えている。
『全然忘れられてないじゃん。』
そうなのだろうか。
意識して考えないようにしていることは、忘れられていないということなのか。